リーマン・ショックがあった2008年、年越し派遣村が日本社 会を揺さぶった。あの問題提起を受けとめた結果がこれだけとは。 懸案だった労働者派遣法の改正がきのう、やっと実現した。民主、 自民、公明3党が修正協議で合意した内容である。
10年に国会に提出していた政府案からは大幅に後退した印象が 拭えない。
改正法は派遣会社に対し、派遣社員に支払う賃金と派遣先から受 け取る料金との差額の公表を義務づけた。同じ仕事をする派遣先の正社員と賃金のバランスも考慮するよう求めている。
こうした措置を派遣社員の待遇改善につながるとして評価する向 きがある。
だが、これで一歩前進といえるだろうか。
実際に仕事があるときだけ派遣会社と雇用関係を結ぶ登録型派遣。問題が多いとして政府案で原則禁止となっていたのに、今回は見送 られた。製造業派遣の原則禁止も同様である。
不安定な働き方の極限ともいえる日雇い派遣をはじめ短期の派遣労働も、禁止期間が「日々または2カ月以内」から「30日以内」 に短縮された。
派遣会社への規制を強め、派遣社員を保護するという当初の狙いはかなり薄められている。
政府案に懸念を表明していた人材派遣業界に「落ち着くべきとこ ろに落ち着いた」との受けとめがあるのは当然だろう。
もともと経済界や自公両党は「派遣労働を規制すると、企業が正 社員しか雇えなくなり、雇用がかえって減る」と当初の案に反対し ていた。
完全失業率が高止まりし、有効求人倍率は1倍を下回ったまま。 労働市場の需給緩和が続くなか、こうした主張が説得力を増したの かもしれない。さらに東日本大震災の被災地では派遣会社を通じた新規就労が際
立って伸びているという。「正社員でなくても、まず働ける場が欲 しい」といったニーズに応えているのは確かだろう。
政府案そのものが労使や有識者の議論の末にまとまった妥協の産物でもあった。当時の鳩山由紀夫内閣が速やかに成立を期すべきだったのに沖縄普天間問題などで迷走。参院選の結果、ねじれ国会となっ
た。
以後、継続審議を繰り返し、揚げ句の果て、自公両党への譲歩を強いられる。マニフェスト違反を重ねるパターンに陥った民主党政権の責任は重い。
派遣社員でつくる労組などが改正法を「骨抜き」と批判するのは無理もなかろう。
派遣労働の現場は当面、従来とほとんど変わるまい。少しでも安 定した雇用につながるよう実態をつぶさに点検し、必要に応じて再 び改正の可能性を探る必要があろう。
とりわけ04年に小泉構造改革で解禁された製造業派遣を現状の まま容認していいのだろうか。技術、技能の蓄積と継承には正社員の常用労働を基本とするのが望ましいはずだ。
関係企業は派遣受け入れを繰り返すのではなく、中長期の人材育成の観点からも正社員登用の道をもっと開いてほしい。
ここ数年、派遣労働のイメージは大きく損なわれた。法改正を通 じ、多様な働き方の一翼を担うのにふさわしいモラルを向上させるべきである。