「人間らしく働きたい」と願う派遣労働者の切実な願いは、十分
にはかなえられそうにない。
派遣労働者の待遇改善、雇用安定を狙いとする改正労働者派遣法が参院本会議で与党と自民、公明両党などの賛成多数で可決、成立した。
派遣先の企業が支払う派遣料金のうち、派遣会社が得る分に関する情報開示の義務化などは当初案通り盛り込まれたものの、当初案で原則禁止とされていた製造業への派遣、仕事があるときにだけ雇用契約を結ぶ登録型派遣は、改正法では削除された。
これでは核心部分が骨抜きにされたのも同然で、不安定な現状を追認することになりかねない。
労働者派遣法は専門性の高い分野に限定して1986年に施行された。90年代に規制緩和が進む中で業種が増え、小泉政権下の2004年に対象業務が製造業まで広がった。
派遣法の規制緩和は多様な働き方を可能にした側面を持つが、賃金水準が低い非正規雇用の拡大を招いた。08年秋のリーマン・ショック以降の急激な景気悪化でいわゆる「派遣切り」が続出し、社会問題化した。
そのため民主党は製造業派遣の原則禁止などを衆院選マニフェスト(政権公約)に掲げ、政権交代によって、派遣労働者の雇用安定の実現を図ろうとした。
だが、民主党の当初案に対し、自民、公明が「企業経営を悪化させる」「雇用機会の縮小につながる」などと反対姿勢を示し、10年4月の衆院提出から継続審議が続いていた。
民主党は「社会保障と税の一体改革」関連の重要法案審議を優先させるため、大幅な譲歩による早期成立を選び、またしても国民との約束をあっさりほごにした。
日本経済の先行きは依然、不透明だ。こうした中、企業には持続可能な経営の維持と、派遣労働者の雇用の安定、適正化を両立させる社会的責務がある。
不安定な雇用状況に歯止めをかけ、日本社会に生じている「格差」と「貧困」の是正を図る施策の実行も緊急を要する。
与野党一体となって、経済成長に結び付けるための雇用の在り方を考え、労働者が安心して働き、暮らせるための施策の展開を図る
必要がある。