北海道新聞 最低賃金発効 千円への道筋を確かに 

北海道新聞 2012/10/18

 本年度の最低賃金がきょう道内でも発効した。

 時給は昨年度より14円引き上げられ、719円となった。全国平均は749円で12円増だ。

 最低賃金は、これより低い賃金で雇用してはならない限度額だ。労使が中心の審議会で答申し、労働局長が決定する。スーパーや清掃のパートなどの賃金体系も、この数字に基づくことが多い。

 引き上げられたとはいえ、この基準でフルタイムで働いても年収は140万円程度である。

 かつて最低賃金による労働者は主婦や学生など家計の補助的な立場の人だった。しかし、いまや一家の大黒柱を担う人が増えている。最低賃金の果たす役割は大きい。さらなる改善努力が急務と言える。

 政府は2010年、労使とともに全国平均を20年度までに千円に引き上げる目標を立てた。いまのペースでいけば目標達成は困難だ。審議会には一層の努力を求めたい。

 最低賃金をめぐっては生活保護の給付水準より低い「逆転現象」が指摘されてきた。道内は本年度での解消を目指したが、昨年度より1円縮まっただけで16円の差が残った。

 新たな解消年度も決まっていない。このまま逆転状態を放置すれば、働く人たちの意欲もそがれる。審議会は早急に目標を設定すべきだ。

 政府は年内に生活保護費の給付水準を見直す。逆転現象の解消を目的にした見直しなら本末転倒と言わざるを得ない。不満が和らいだとしても収入増にはつながらないからだ。

 経済協力開発機構(OECD)の09年の調査によれば、日本の最低賃金は国内の標準的な賃金の36%にすぎない。フランスや英国など先進諸国の中では最も割合が低い。

 にもかかわらず、経営側からは最低賃金を引き上げれば雇用に影響するとの声が強まっている。

 英国は1999年に全国最低賃金制度を導入し、その後も引き上げたが、失業率を改善した実績を持つ。

 従業員への職業訓練に力を入れた結果、生産性が向上し、収益が増えて解雇が減ったためだ。こうした実態を詳しく分析する必要がある。

 労働運動総合研究所(東京)の試算では、最低賃金を千円としても企業全体の内部留保の1・49%を放出するだけで財源が賄えるという。

 もちろん中小企業などでは賃上げが経営に響く場合はあるだろう。

 そのためにも国や自治体の後押しが欠かせない。設備投資助成の拡充や公共事業の下請け受注価格の適正化などを検討する必要がある。

 賃金上昇による購買力の強化が、冷え込む内需への刺激になることを忘れてはならない。

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