東京新聞 2013年2月20日
国際結婚が破綻した夫婦の子どもの扱いを定めた「ハーグ条約」への加盟に向け、承認案が今国会で成立する見通しとなった。条約加盟が日本の離婚後の親子法をも変える契機であるべきだ。
「ハーグ条約」は、国際結婚した夫婦が離婚し、片方の親の同意なしに子ども(十六歳未満)を国外に連れ帰った場合、原則として子どもを元の居住国に戻し、親権問題はその後に解決するよう定めている。加盟国には政府機関の「中央当局」が設けられ、子どもの居所の発見や、元の居住国への返還、子どもと暮らせない親と子の面会交流の支援などが義務づけられる。日本では外務省が担う。家庭内暴力(DV)など子どもに危害が及ぶとされる場合は、子どもが暮らす国の司法判断で返還を拒むこともできる。
締結国は米国や中南米を中心に八十九カ国。主要八カ国で未加盟は日本だけだ。加盟にはDVケースへの対応などで慎重論も強かったが、国際結婚が年間四万件まで増えた今は避けられないだろう。
論議の背景には、子どもを連れて帰国した日本人の親と、返還を求める外国人の親との間で頻発している問題がある。米国や英国、カナダ、フランス四カ国から指摘された連れ帰りは約二百件。米国から連れ帰ったケースでは日本人の母親が誘拐罪で指名手配され、米国に再入国した際に逮捕されたケースもある。日本が条約に入っていないため、日本から外国に連れ出された子どもに会えなくなった日本人の親もいる。条約加盟によって日本から連れ去られた子どもの返還にも政府の協力が得られるようになるのは大きい。
国境を越えた連れ去りで、一番苦しんでいるのは子どもたちだ。無力な子どもは連れていかれた親に従うしかないが、片方の親から引き離されることで心に傷を負い、成長の中で困難を抱えがちになる。だからこそ条約は、子どもの最善の利益を最優先する。一方の親との関係を断ち切られた状態が続くこと自体が有害だと考える。
子どもの幸せを最優先する理念は国内にも生かされていい。日本は離婚後に父母どちらかが親権者となってしまうため、離婚前から子どもを連れて別居し、そのまま親権を取ろうとするケースが絶えない。一方の親には親権の侵害で、つらい立場に陥らせるが、日本の家庭裁判所は「生き別れ」を黙認してきた。条約加盟を機に、日本の親子法を論議し、変えていってほしい。