東京新聞 2014年10月7日
政府は労働者派遣法改正案を今国会に再提出した。派遣労働の規制が緩和されれば、雇用が不安定で低賃金の非正規労働者をさらに増やしかねない。雇用の劣化につながる見直しは許されない。
同法案が成立すれば、企業にとって使い勝手のいい派遣労働が増え、正社員を非正規社員に置き換える流れに拍車がかかると懸念される。「基本は正規雇用。派遣は例外」という法制定以来の理念を覆すものだ。
現行では、正社員から派遣社員への置き換えを防ぐ目的で、派遣期間に上限を設けている。通訳や秘書など「専門二十六業務」をのぞき、企業が派遣社員を使える期間は三年が上限となっている。
ところが、改正案が成立すると、企業が三年ごとに働き手を変えればどんな仕事でも、ずっと派遣労働者に任せられるようになる。上限より長く派遣社員を使う場合は、派遣先企業の労組から意見を聞くことなどを盛り込んでいるが、歯止めになるだろうか。
また、派遣会社が無期雇用している労働者は、どんな業務でも同じ職場で期間の制限なく働かせることができるようになる。
労働者派遣は当初、専門性の高い業務に限って認められていた。
一九九九年に一部を除いて対象業務が原則自由化。小泉政権下の二〇〇四年に製造業務への派遣が解禁され、派遣労働者数は増加していった。だが、〇八年のリーマン・ショック後、多くが派遣切りにあった。「雇用の調整弁」にされている不安定さを印象づけた。
改正案は、派遣会社に教育訓練を実施することや、派遣先会社が正社員の募集を行う場合は本人に情報提供することなども盛り込んだ。安倍晋三首相は「派遣労働者の正社員化を含むキャリアアップを支援するもの」と強調するが、実効性は疑問だ。
派遣やパートなどの非正規労働者の全労働者に占める割合は一四年で38%と過去最高。非正社員の平均年収は、正社員の五割程度、二百七十三万円(一一年)にとどまる。厚生労働省の調査では、派遣労働者の六割が「正社員として働きたい」と答えている。
派遣労働者の既婚率は低いという調査もある。若者の雇用環境は悪化しており、不安定かつ低賃金の派遣労働が増えることは日本の将来にとっても問題だ。
安倍首相が掲げる「世界で一番企業が活躍しやすい国」を実現するために、労働者の生活を犠牲にするのなら、改正とは言わない。