読売新聞 2014年12月09日
主要政党が衆院選で定数削減を唱えている。国会の機能低下など弊害の多い主張を喧伝けんでんする姿勢は、甚だ疑問である。
民主党は、公約の重点政策に「身を切る改革」を位置付けた。定数削減で「政治への信頼を回復する」と明記している。
維新の党も、「身を切る改革」を前面に掲げ、3割削減という具体的な目標を示した。自民党は、公約で、比例定数を30削減する案をまとめたことに触れた。公明党や次世代の党も、公約に定数削減の実現を盛り込んでいる。
国会議員が身を切らなければ、消費税率引き上げなど「痛み」を伴う政策への国民の理解が得られない、と思っているのだろう。
何か勘違いしていないか。
定数を削減すると、多様な民意を反映しにくくなるうえ、立法府自らの権能の低下につながる。中小政党が議員を出せない常任委員会などが増える恐れがある。その結果、行政への監視機能を十分に果たせなくなるからだ。
人口比で見れば、日本の国会議員数は欧州などより多くない。
身を切るというのなら、税金でまかなう政党交付金や議員歳費、文書通信交通滞在費などを削る方が効果的と言えよう。
民主党は、定数削減が実現しないまま衆院を解散した安倍首相を「約束違反」と非難している。
2012年の衆院選前に自民、民主、公明3党が定数削減など選挙制度改革の検討で合意したことが念頭にあるのだろう。
だが、党利党略が絡み合い、与野党協議が行き詰まった結果、約束が果たされなかった。首相だけを批判するのは筋が違う。
急ぐべきは、前回衆院選で「違憲状態」とされた小選挙区の「1票の格差」を是正することだ。
衆院議長の下で、有識者らによる選挙制度の調査会が来年、答申をまとめる予定である。各党は調査会の結論を「尊重」することで合意しており、速やかに格差是正を実現しなければならない。
民主、維新両党などは、衆院選の費用が約631億円に上ることや、前回から2年という衆院解散の時期を批判している。
民主主義には、一定のコストがかかる。衆院選の間隔は平均2年9か月であり、信を問うのが早すぎるとは言えまい。
「身を切る改革」を否定するわけではないが、定数削減は国民受けするという発想からそろそろ「卒業」してはどうか。