非正規と正社員の格差はなくなるの 弁護士からのアドバイス
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190914-00010001-doshin-soci&p=1
2019/9/14(土) 18:01配信北海道新聞
非正規と正社員の格差はなくなるの 弁護士からのアドバイス
札幌弁護士会の迫田宏治弁護士
「働き方改革関連法」が順次施行
「働き方改革」という言葉をよく聞くようになりました。「カロウシ」(過労死)が国際共通語になってしまうほど、日本人は働き過ぎといわれます。その是正の一歩として、2018年6月に成立した「働き方改革関連法」が、2019年4月から順次施行されています。この法律によって、私たちの働き方や暮らしに、どのような影響があるのか、問題点は何かなどについて、札幌弁護士会の迫田宏治弁護士に聞きました。(聞き手・報道センター 小林基秀)
――この法律の柱は何
働き方改革関連法による法改正部分は多岐にわたりますが、このうち重要な改正部分は、(1)残業時間の上限規制を導入(2)年5日の年休取得を企業に義務づけ(3)正社員と非正規の不合理な待遇差の解消−の3点です。これらは、労働者側に立った立法といえます。
非正規と正社員の格差はなくなるの 弁護士からのアドバイス
「働き方改革関連法」の主な内容
――残業時間に上限は
1カ月45時間、1年で360時間という行政指導の目安はありましたが、三六協定といわれる労使協定があれば、実質的に上限はなく、働かせ放題とも言われていました。今回の法律で、この45時間、360時間を超える残業は原則できなくなりました。労働基準法が1947年に制定されて以来、残業時間の上限を法律で規制することは初めてです。違反すれば、まずは行政指導になるでしょう。悪質だとされると罰則が適用され、『6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金』の罪に問われる可能性もあります。
――1カ月45時間という線引きは
法定労働時間、つまり残業にならない労働時間は『1日8時間、1週間40時間』です。1日は24時間ありますから、『労働』『私生活』『休息・睡眠』を三等分の8時間ずつ過ごし、週に2回休むのが、健康な人間らしい生活との考えが基本です。1カ月45時間は、1日あたり約2時間の残業。このラインを超えると、過労死との関連性が徐々に強まるとされています。さらに1カ月80時間を超えると、残業だけで過労死に至る恐れがあるとされ、それだけで労災に認定される可能性があるラインです。
――フランチャイズ店の店主は対象?
労働法制の保護対象は労働者、つまり使用者と雇用契約関係にある人です。フランチャイズ店の店主は、一般に、独立した個人事業主であり、労働者ではないとみなされていますので、労働法による保護の対象外です。実はこの点が、今後の日本社会で大きな問題をはらむ可能性があります。表面上は個人事業主でも、実態としては労働者に近いという事例は多く、雇用形態の変化で今後さらに増えていく可能性があるのです。
――「一人親方」のような事例は
はい。それに加え最近は、企業がそれぞれ個人事業主と契約して事業展開している場合、本部からの強い指揮命令やノルマがあり実態は労働者ではないかといった事例もあります。
欧米では新ビジネスとして、スマートフォンのアプリでタクシーを配車する新事業が拡大しています。この運転手は自分の車で営業する個人事業主ですが、アプリによって行き先を本部から指示されており、労働者ではないかとの見方もあります。日本ではこの事業は白タクに当たるとして認められていません。ただ、このような事例が示すとおり、技術革新により働き方が変わり、結果的に労働法による保護の対象から外れてしまう人が増える恐れはあります。
うがった見方をすれば、法律で労働者を保護しようとするほど、悪質な使用者は、表面上労働者ではない形態の契約をして、法規制を免れようとする懸念はあります。使用者にとって、労働者の社会保障は負担義務がありますが、個人事業主だと不要なので、個人事業主との契約という形にしたいという側面もあります。
――年5日の年休取得を企業に義務づけたのは
日本人は諸外国と比較し、休暇を取らない傾向が強いと言われています。欧州では1カ月の夏休みを取りバカンスに行きますよね。法律上認められている年休日数は最大20日間ですが、厚生労働省によると、日本の年休取得率はおよそ50%にとどまっているという実態があります。
――そもそも、年休の意義は
人間には、仕事の疲れを癒やす毎週の休みのほかに、心身ともリフレッシュするための休暇が必要であり、それがその後の仕事の能率を上げる、との考え方が根底にあります。先に欧州のバカンスの話をしましたが、日本とともに技術立国であるドイツの労働者は日本人よりとても長い休みを取ります。それでも生産性は高いですよね。
――日本で年休取得率が低いのはなぜ
これまでは、労働者が自ら年休の取得を申し出なければなりませんでした。上司や同僚への気兼ねといった日本人の気質も関係しているかもしれません。今回の法律では、使用者が労働者の希望を聞き、最低でも5日の年休を取らせなければならなくなりました。将来的にはこの義務づけの日数を徐々に増やしていくことも考えられます。
――年休5日を取らせないと、罰則があるの
年休付与義務に違反した事業主には、『6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金』という罰則が科されます。このような法違反は、理屈上、労働者1人ごとにカウントすることになりますので、労働者10人につき法違反があれば、企業には、300万円以下の罰金が科される恐れがあるということになります。先の残業時間の上限規制の違反もそうですが、企業にとっては罰金そのものよりも、違法行為をした、犯罪行為をしたということへの社会的な批判、企業イメージの低下の方が、ダメージが大きいかもしれません。
――「正社員と非正規の不合理な待遇差を是正」とは
『非正規』とは(1)パート(2)有期雇用(3)派遣の労働者を指します。正社員と非正規の業務内容が同じなら、待遇も同じにしなければならない、ということです。『同一労働同一賃金』ともいわれます。また、業務が同じではないにしても、共通部分も多いなら、待遇差が不合理に大きいのもダメですよ、ということです。例えば業務があまり変わらないなら、待遇が正社員の5割というのはおかしいですよ、という趣旨です。厚生労働省は、昨年12月、具体的にどの程度の待遇差が不合理かを示すガイドラインを策定・公表しました。
――待遇差は非正規には分からないのでは
はい。そこで今回の法律は、非正規が使用者側に正社員との待遇差、つまり賃金や福利厚生、教育訓練などにどのような差があるか、その理由は何かの説明を求めることができるとしました。つまり使用者側に説明義務を課しました。これだけ非正規を包括的に守る諸外国の法律をみたことがありません。これは労働者側には『武器』になるでしょう。もし、使用者側が十分な説明をしなかったことで非正規に訴えられた場合、使用者にとっては不利な帰結となるでしょう。
――疑問を感じ、不合理だと思ったら
1人でも会社側に説明を求めることができます。1人では聞きづらいと思うなら、非正規の仲間と一緒に要求してもいいですし、職場で労働組合を結成することもできます。職場での組合結成が難しければ、会社が違っても1人でも加入できる各地域の労働組合『地域ユニオン』に入り、使用者側と交渉する選択肢もあります。札幌弁護士会の法律相談センターの無料相談(予約制)を利用することもできます。
各地の『法テラス』でも相談(収入等が一定額以下である方が利用でき、相談料は無料)できます。地域の労働局に相談することもできます。労働局は、使用者と労働者の争いを、無料・非公開で話し合い、裁判をせずに解決する手続き『行政ADR』を行います。働き方改革関連法のうち、非正規を守る部分が施行される2020年4月からは、非正規の待遇差に関することも行政ADRの対象になります。それでも解決しなければ、最終的には裁判を起こすことになります。
三六協定とは
「さぶろくきょうてい」あるいは「さんろくきょうてい」と読む。
労働基準法36条に基づき、残業時間や休日日数を定める労使間協定。協定がない場合、使用者(企業)は1日8時間、週40時間の法定労働時間を超えて残業させることができない。例外的に労使で独自に上限を決める「特別条項」を設けることが可能だが、法律で定められた上限はなく、無制限な働き方を助長しているとの批判があった。
北海道新聞社