【社説】副業の促進策 働く人の保護が優先だ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2020011602000151.html
東京新聞 2020年1月16日
複数の勤め先で働く副業や兼業を政府が促進している。働き方の多様化は時代の流れだろう。だが、忘れてはならないのは健康で安全に働ける労働環境の整備だ。働く人の保護を第一に考えたい。
仕事中にケガを負ったり病気になった際、医療を受けたり生活費などを補償する支えが労働者災害補償保険法に基づく労災制度だ。
障害を負えば年金が支給されたり、介護が必要な場合はその費用の補填(ほてん)もある。しかも、財源となる保険料は事業主が負担している。労働者の「もしもの時」を支援する大切なセーフティーネットである。
厚生労働省は昨年十二月、長時間労働に起因する労災の認定基準について、副業・兼業など複数の勤め先の労働時間を合算する仕組みに改めることを決めた。一月二十日に召集される通常国会に関連法改正案が提出される。
これまでは合算が認められず、複数の勤め先で長時間労働を余儀なくされていても労災が認定されなかった。改正でより認定される人が増えるに違いない。
労働者は生身の人間である。どこで働いていたかに関係なく、どれくらいの時間働いたかが健康に大きく影響する。実態を考えれば改正は当然だ。
政府は二〇一七年に策定した働き方改革実行計画で、副業・兼業の促進を明記した。翌年には厚労省が「モデル就業規則」を、従来は禁止していた副業を認める内容に改定した。
政府の取り組みが、働く人の命や健康を軽視し、単に働き手を増やしアベノミクスを支えることが狙いだとしたら問題だ。
そう思わせる課題がある。
労災は予防が大切だが、そのための労働時間そのものの把握・管理のルールが決まっていない。このままでは労働者ごとの労働時間の管理が十分にできない。停滞している議論を進めてほしい。
さらに、企業などに雇用されていない個人事業主やフリーランスで働く人も保護の必要性は同じだろう。
宅配サービス「ウーバーイーツ」の配達員でつくるユニオンや、俳優やダンサーなどでつくる協同組合「日本俳優連合」も個人事業主への適用を要望している。だが、改正案では対象外のままだ。
どんな仕事でも働く人が能力を発揮するには安心できる職場環境が不可欠である。実態に制度が追いついていないのなら、政府はルールづくりを急ぐべきだ。