社説[春闘スタート]雇用改革 慎重に議論を
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/527427
2020年1月28日 07:39 沖縄タイムズ
主要企業の労使が意見を交わす、きょうの「経団連労使フォーラム」を皮切りに、2020年春闘がスタートする。
すでに経団連の経営労働政策特別委員会(経労委)報告、労働組合のナショナルセンターである連合の春闘方針が出そろっている。
経営側の交渉指針となる経労委報告で注視すべきは、新卒一括採用、終身雇用、年功序列賃金を柱とする日本型雇用慣行の見直しを強く押し出した点だ。
グローバル化の進展で優秀な人材の獲得が難しくなっているとし、人工知能(AI)開発者などを念頭に高額な報酬で人材を確保する「ジョブ型」雇用の活用を促している。
多様な人材の活用や仕事の質重視など、働く人のやる気を引き出す改革の方向性は理解する。企業の生き残りをかけて競争力を維持・拡大するにはスペシャリスト採用も必要だろう。
ただ、長期的視点に立った人材育成や人材定着を可能とした日本型雇用が、戦後の経済発展を支えてきたことも事実である。
人材は「人財」ともいわれるが、今回の慣行打破は社内研修などに力を入れ、次世代の人材を育てるという企業の役割を軽視しているようにも映る。
経団連が目指す見直しによって、専門スキルに乏しい若者の失業率が高まらないか、待遇改悪やリストラしやすい環境につながらないか、懸念する。
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見直しに対する連合の見解はこうだ。
「日本の企業の99%は中小企業で、非正規労働者が全体の4割を占めている。『転換期を迎えている日本型雇用システム』という文言自体がミスリーディング」
日本的なよい部分は失われている上、中小や非正規で働く人たちへの視点が欠けているとの批判である。
賃金水準が正社員の6割ほどにとどまる非正規社員の待遇改善は、引き続き春闘の大きなテーマだ。
日本型雇用慣行に切り込むというのなら、「同一労働同一賃金」も避けては通れない。
4月から大企業を対象に、正社員と非正規社員の不合理な待遇格差を禁じる同一労働同一賃金がスタートする。労働者から格差の説明を求められた場合、企業は説明義務を果たさなければならない。
「底上げ」の実現は差し迫った課題だ。
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今春闘で連合は、2%程度のベースアップを求めている。「賃上げの流れを止めず、社会全体に広げることが重要だ」とする。
経労委報告はベアを容認するものの、全社員一律ではなく、仕事給や業績給などに手厚くする方策を示す。
日本経済は企業業績が堅調にもかかわらず、内部留保が積み上がり、実質賃金も、労働分配率も低迷している。成長の果実が十分還元されていないのだ。
「経済の好循環」を実現するためにも賃上げが欠かせない。