第18回 東京五輪は「命より金」でなく「金より命」を大切にすべきだ

東京五輪は「命より金」でなく「金より命」を大切にすべきだ

 今年5月、国際建設林業労働組合連盟(BWI)が「東京五輪組織委は人命軽視の危険な労働環境で働かせている」と警告していた。BWIは約130の国・地域の労働組合が加盟する国際労働組合組織で、2006年から五輪やサッカーワールドカップなど大規模イベントの建設現場で劣悪な労働環境で死亡事故などが多いことから、状況を調べていたが、詳しい提言書(The Dark Side of the Tokyo 2020 Summer Olympics)をまとめて組織委などに伝えていた。参照(https://hatarakikata.net/modules/data/details.php?bid=2256)

報道によれば、BWIの提言書では、
「・作業員の半数が雇用契約でなく、請負契約のため(一人親方が請負う)、法的な保護が手薄
・選手村で月28日間、新国立競技場で月26日間、勤務した作業員がいた
・作業員の中には安全器具を自腹で購入した者がいた
・薄暗い中での作業の改善を求める労組からの通報をJSCが受理しなかった
・外国人技能実習生の人権が守られていない、資材運搬など単純作業ばかりを強いる
・作業員が失職などを恐れて労働環境の改善を訴えにくい雰囲気がある」

 さらに、BWIは、労働者からの直接に聞き取り調査もしており、次のように指摘していた。それは、
 「労働者は、外国人労働者たちが原材料の取り扱いなど単純作業(menial tasks)だけをさせられていると答えた。彼らは、建設過程の遅れが労働者の間でどのようにストレスを引き起こし、質の悪い(poor)安全慣行を生み出したかについて話した。はるかに問題のある調査結果(findings)は、労働者が懲戒を受けるか失業する恐れがあるために、労働者が労働条件について苦情を申し立てるのを妨げる『恐怖の文化(culture of fear)』が蔓延していると報告した」など、
かなり深刻な内容であった。

 この提言書が公表されてから3ヵ月も経過するのに、いまだに協議もしていなかったことに驚かされる。
実際、建設計画が余りにも過密なスケジュールで進められた。そのため、携わっていた労働者があまりにも長時間の過密労働で過労自死する事件も生じていた。この8月には、熱中症で建設作業員が死亡している。
むしろ、東京五輪組織委は、こうした労働者死亡とBWIの提言にも関わらず、来年の猛暑時期に大量の「ボランティア」を利用する計画をそのまま進めている。否、その計画を一層拡大しようとしている。最近、医療スタッフまでボランティア形式で利用しようとする計画が明らかになった。医療団体にはボランティアに応ずることが要請されており、関係者から戸惑いの声が上がっている。
東京五輪では、こうしたボランティア形式だけでなく、建設重層下請、派遣労働利用(パソナなど)も広く行われている。これらはいずれも、労働法の定める使用者責任の回避、とくに労働安全衛生法による熱中症対策などの使用者責任回避につながり、労働者保護の視点からきわめて疑問である。上記BWI提言書も、「法的保護が手薄な働かせ方」として、個人請負の利用があることを問題として指摘している。これらの多様な雇用形態利用は、東京五輪組織委が、働く人の生命・健康を軽視し、配慮責任を回避しようする姿勢を示すものである。
五輪であっても、それを至上目的に生命・健康を軽視してはならない。本間龍さんは東京五輪について、「東京インパール」と表現して旧日本軍の無謀な作戦(インパール作戦)になぞらえて的確な批判を続けておられる。最も大事なことは「金より命」である。五輪を口実に庶民が納めた税金から莫大な利益をあげ、大きな利権を得ようとする関連企業や、それと癒着するマスコミ、政治家などの輩(やから)は「命より金」を優先していると考えざるを得ない。口先では「お・も・て・な・し」など、華やかで綺麗なことを言っても、実際に準備作業の現場で進められているのは「金」を重視して「命」を軽視する事例が多すぎる。
こうした東京五輪開催そのものに強い疑問があるが、少なくともBWIが提言するように「金より命」の考え方を最優先に、働く人の生命・健康を守ることを政府、東京都、組織委などに求めていく必要がある。莫大な利権を減らせば、「命」を守るための財源をねん出することができるはずだ。そうしなければならない。
もし、五輪推進者たちが、「財源」を理由として「金より命」を否定するのであれば、そんな五輪は許されない。今からでも返上すべきである。 

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