原子力に反対し続けてきた小出裕章さんの動画を見て
昨晩、Youtubeで、20190911 UPLAN 小出裕章「福島は終っていない、原発はクリーンではない」という講演動画を見た。原発の問題を訴え続けて来られた、原子力問題研究者である小出裕章さん。良心のある真の研究者として敬意をもって、その発言や活動を見てきた。その最新の講演(2019年9月11日)と質問へのやりとりのYoutube動画である。
https://www.youtube.com/watch?v=CL_yjWM69VY
2011年3月の福島原発事故から既に8年半を経過して、政府やマスコミがまったく報道しない中で、日本社会では多くの人の記憶が薄れ、問題意識が消えてきていることを感じた。
現在も、被曝労働に従事する労働者の危険な労働環境の問題点が指摘されて、労働法研究者の一人としても改めて驚き、気がつかなかった捉え方を示された。とくに、「被曝労働」をめぐり、下請け、孫請けなどの労働者に危険作業を押し付けていることが問題であることは知っていたが、さらに、昨年、政府・与党が、外国人労働を受け入れる「出入国管理法」を突然改正した。小出さんは、この被曝労働を「外国人材」に押し付けるためであったと、政府と電力会社の隠された意図を鋭く指摘された。
この小出さんの講演を聞いて、個人的にいくつか考えることがあった。
□放射能を避けて家族と帰国したアメリカ人教員
一つは、福島原発問題については関西地域に住むためか、私も問題の捉え方が弱かった。ただ、現役時代、法学部の同僚であった英語担当のアメリカ人教員、Jさんが放射能問題を深刻に受け止めて、大学を退職してアメリカに帰ってしまった。
その前に、彼は40歳半ばで日本で就職した外国人教員は、高い公的年金保険料を毎月の給料から天引きされていたことに疑問をもった。60歳まで働いても、資格を得る25年にならないので多くの外国人教員が老齢年金を受ける資格がない。その理不尽さを、社会保障法を担当していた私に訴えた。
1998年、私は「京滋私大教連」(京都・滋賀地域の私立大学教職組の連合組織)の役員をしていたので、彼の訴えを受けて「外国人教員が抱える年金問題」を取り上げ、龍大だけでなく京都産大、京都女子大など、他大学教員の事例を集めて交渉団を作り、上京して厚労省等に陳情した。応対した厚労省の若手官僚は、「問題点はよく分かったが、外国人の要求は少数で、票にならない。改善を提案しても順序が低くなる」と答えた。→関連資料「1998外国人教職員の年金制度の改善に向けての要請」(https://bit.ly/2mkMg7J)〔なお、ごく最近になって、年金受給資格のための25年が10年に短縮された。〕
Jさんは、この年金問題に一緒に取り組んだことからも、おそらく定年を過ぎても日本に長く暮らすことを考えていたと思う。実際、Jさんは、その後、結婚して子どもさんも生まれた。そのJさんが、日本を離れるのは余程のことであったと思う。何事にも関心をもって深く考える知的な彼のことだから、放射能の問題についても英語文献を詳しく調べて深く深く考えての結論であったと思われる。
私は、親しくしていたJさんが帰国することに寂しさを感じるととともに、放射能問題についての深い捉え方に驚いた記憶がある。
□少数であっても、真実を伝える研究者の役割
小出裕章さんは、研究者として、原子力の危険性を訴え続けてきた。マスコミや学界が、政府や大企業に忖度して真実を伝えない中で、原子力の危険性を訴え続けてきた小出さんの役割は貴重だと思う。研究者のあるべき生き方を実践されていると思う。
理系と文系の違いはあるが、私も研究者の一人として、日本の雇用社会における働き方(実は、働かせ方)の問題点を分析し、訴えていきたい。労働法の学界では、「派遣法は『毒の缶詰』」だという私の指摘は、小出さんの主張と同様に圧倒的少数かも知れない。しかし、真実は長く覆い隠すことはできない。
とくに、この小出さんの講演では、以下のように、労働法とも密接な論点として「被曝労働」「外国人労働」の問題が鋭く指摘された。小出さんの研究者としての生き方に学ぶとともに、学界の主流が扱わない「被曝労働」「外国人労働」などの問題についても、目をそらさず考えて行きたい。
<小出講演の一部メモ>
●福島第一原発2号機で「苦闘は今も続いている」
>溶け落ちた炉心がどこにあるか、8年半経った今も探し続けている。
>国と東電は溶けた炉心を、30〜40年かけてつまみ出すとしていた。
>ロボットは放射線の強い現場に近づけない。
>胃カメラのようなものを使わざるを得なくなった。
>当初の計画が次々に大きく変わっている。
>100年後にも事故は収束できない。
●被曝労働と劣悪な労働環境
>でもやらなければならない、この困難な作業に何千人という、多くの労働者が従事している。
>普通の労働と違い、被曝労働は「被曝限度に達するまでの被曝を売る」
>被爆限度(1年で20mシーベルト、5年で100mシーベルト)まで。この被爆限度に達してしまうと働けない。
>被曝労働に従事しているのは下請け、孫請けなので、限度に達すると解雇。
>解雇されて、病気になっても因果関係の証明ができない。何の補償も受けられない。
●外国人材と差別の世界
>最近、外国人材導入が話題になった。
>今後、何十万、何百万の被曝労働者が作業せざるを得ない。
>どれくらいの被曝労働者が必要か。誰に押し付けられるのか。
>昨年「出入国管理及び難民認定法」(外国人材拡大法)が突然、改正
>法改正の目的=「人材を確保することが困難な状況にある産業上の分野に属する技能を有する外国人材の導入を図るため」
>「私(小出さん)は、これを見たときに福島に連れて行くんだな」と思った。
>すぐに東電は「やる」と言ったが、大きな批判が巻き起こって、今、東電は「当面やりません」と言っている。いずれ「やる」ということ。外国人だから許されるのではない。こんなことは、人としてどうなのか。
●敷地外でも苦闘が続いている
>膨大な放射線の放出と広大な汚染地
>生活を根こそぎ破壊され、流浪させられた人
>汚染地に棄てられた人
>一度は逃げたが、帰還させられる人
>大気中に放出されたセシウム137だけで
>1、2、3号機合計で、広島原爆の168発分をばらまいた(日本政府発表)
>この「死の灰」は、汚染地図(政府作成)でも、福島から関東の広大な範囲に拡大
>1平方当たり3〜6万ベクレルの汚染も。
>それまでの法律では、「放射線管理区域」では4万ベクレルを超えてはならない、となっていた。
>日本の広大な範囲が「放射線管理区域」並みの汚染が、現在も続いている。
>「原子力緊急事態宣言」を発して、法律上の制限を反故(ほご)にした。
>この緊急事態宣言は、8年半経っても続いている。100年を経っても「緊急事態」が続く。
>ほんのわずかな放射線物質をばらまいても、ものすごい状況になる。
>「放射能は目にみえない」→政府は、風評だというが、実害はある。
>マスコミは、口をつぐんで何も言わない。
>ほとんどの日本人は「緊急事態」が続いていることを忘れている。