「おい、服脱いで踊れ」 パワハラ深刻化、心むしばむ

朝日デジタル 2013年10月4日

写真:オフィス機器の販売会社を辞めた男性。今は別の会社の営業マンだが、「昔ほどひどい働き方はしていません」=9月、東京都内(写真は省略)

図:労働相談で「パワハラ」が最多に拡大労働相談で「パワハラ」が最多に(図は省略)

 【牧内昇平】「おいテメー、最近売り上げがねーな。テンション上げるぞ。服脱いで踊れ」

 午後8時過ぎ。東京都の男性(34)がオフィスで営業の電話をかけていると、年上のマネジャーが命令してきた。

 30人ほどの同僚が残っているが、上司の命令は絶対だ。ためらうことなく全裸になり、机の上に乗った。命じられるまま、当時はやっていたロックバンドの歌を、踊りながらうたった。

 同僚たちがどっと笑うと、男性もつられて笑った。「笑われるのはつらくなかった。怒られるよりは、こっちの方がずっと楽だった」。全裸で踊らされたことが何度もあったと、男性は振り返る。

 当時勤めていたのは、東京都に本社があるオフィス機器の販売会社。今まで取引がなかった中小企業に急に電話してアポイント(訪問の約束)をとり、コピー機を売る仕事だった。営業マン1人につき毎月4〜10台の販売ノルマがあり、「ノルマをこなさなければ、人として扱ってもらえない会社だった」。

 朝8時半に出社。朝礼で腕立て伏せとスクワットをさせられてから、仕事が始まった。営業先のリストを見て、片っ端から電話をかけた。「間に合っている」と言われて、すぐに電話を切られる場合が多い。手をぬいていないか、マネジャーがずっと監視していた。

 夕方になっても1件もアポが取れていないと、冷や汗が出た。マネジャーが怒り始めるからだ。

 「なにポヤポヤやってんだよ! 電話離すんじゃねー」。怒鳴るマネジャーに、手と受話器を粘着テープで巻きつけられた。イスを蹴飛ばされ、テープを巻いた手で、立ったまま電話をかけ続けた。

 午後10時。アポ取りの電話ができない深夜になると、マネジャーの前に正座させられた。「なんでアポ入らねーんだ。死にてーのか!」「仕事できねーやつだな。親の育て方が悪かったのか?」

 長い日は午前1時ごろまで、マネジャーの説教は続いた。2004年に入社し、5年もたたないうちに過労とストレスで頭痛がひどくなり、退職を決めた。(後略)

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