SankeiBiz 2014.10.22
政府は22日、政府と経済界、労働団体の代表らを集めた「政労使会議」を開き、年齢や勤続年数に応じて給料が上がる「年功序列型賃金」の見直しの本格議論に着手した、平成27年春闘が本格化する前の12月にも、政労使で取りまとめる合意文書への反映を目指す方針だ。ただ、景気の雲行きが怪しくなっている中、「賃上げ」の労使交渉が前年より激化するのは必至。年功序列型賃金制度の改革をめぐっても3者の思惑に大きなズレがあり、着地点を見いだすのは容易ではない。
「賃金の上昇がなければ経済の好循環を生み出すことはない」。安倍晋三首相は、労使の代表を前に会議の冒頭でこう述べた。
事実上の「賃上げ要請」ともとれるが、首相の狙いは、もっとしたたかだ。首相は「労使間での決定が必要」と前置きしつつ、「賃金の水準と体系の議論が必要」と強調。労使それぞれに“アメとムチ”を与え、賃上げと年功賃金の見直しの両立を促すつもりだ。
ただ、賃上げについては給与を一律に引き上げるベースアップ(ベア)と一過性が強い一時金(ボーナス)とでは企業の固定費負担に大きな違いがあるほか、消費税増税後の景気の減速で業績の先行きが見通しにくくなっており、経営側のガードは堅い。一方、長年労使で交渉を積み重ね、労働慣行となっている年功賃金の見直しについては、労働側の抵抗は強い。
政府が、年功賃金の見直しを促す背景には、右肩上がりの「賃金カーブ」を是正し、消費意欲が旺盛な子育て世代への支援につなげる考えがある。個人消費の回復をテコに、消費税率引き上げ後の景気のてこ入れを見据える。
この日の会合では年功賃金の見直しで先進的な企業として、日立製作所の中西宏明会長、パナソニックの津賀一宏社長、ホンダの伊東孝紳社長の3人を招いた。3人はそれぞれ「グローバル標準や高い透明性」(日立)「人件費の配分を年齢別から役割別にする発想転換」(パナソニック)「メリハリのある処遇の実現が可能」(ホンダ)など制度導入の理由をあげた。
経営側は年功賃金の見直しには大枠で賛成だが、労働側が「賃上げ」として求める2年連続のベア実施には慎重。「法人実効税率を真水で2%下げれば賃上げができる」(経団連の榊原定征会長)など牽制(けんせい)球も飛ぶ。
一方、「2%以上」のベアを求める連合は「年功賃金制度が否定されるものかどうかは、もっと議論が必要だ」(古賀伸明会長)と、見直しありきを警戒。UAゼンセンの逢見直人会長も「業績評価制度の課題は多い」と指摘した。
(永田岳彦、小島清利)