日本マスコミ文化情報労組会議「ハラスメント防止対策の強化を求める意見書」(10/17)

2019年10月17日 / 最終更新日 : 2019年10月17日 shinbunroren
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ハラスメント防止対策の強化を求める意見書(10月17日)

 新聞労連、民放労連、出版労連などメディア関連労組でつくる「日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)」は10月17日、ハラスメント防止対策の強化を求める意見書をまとめ、厚生労働大臣と労働政策審議会の雇用環境・均等分科会の委員に提出・送付しました。MICが4〜5月に、就職活動中の学生などを含めたあらゆる職場・業界の人を対象に実施したアンケート結果では、「不適切な相談」が新たな「二次被害」を生み、被害を拡大させている実態が浮かび上がってきました。泣き寝入りが常態化していた財務事務次官のセクシュアルハラスメント問題以前の社会に後戻りさせないための仕組み作りを求めています。


ハラスメント防止対策の強化に関する要望書

―被害者が不利益にならない確実な救済制度構築を―

2019年10月17日 

厚生労働大臣 加藤 勝信 様
労働政策審議会 雇用環境・均等分科会委員各位

日本マスコミ文化情報労組会議 
議長 南 彰 
(新聞労連、民放労連、出版労連、全印総連、映演労連、映演共闘、広告労協、音楽ユニオン、電算労)

 日頃より、あらゆる人が働きやすい環境の確立に向けて尽力されている皆さまの活動に心より敬意を表します。

 さて、今年の通常国会でパワーハラスメント防止法等が成立し、また、6月の国際労働機関(ILO)の総会では、「仕事の世界における暴力とハラスメント(いじめ、嫌がらせ)の根絶」に関する条約(ハラスメント禁止条約)が日本政府も賛成する形で採択されました。

 日本はこれまで、ハラスメント問題への取り組みが遅れていましたが、国内外の二つの動きは、当事者たちが声を上げ、社会や政府などを動かして手に入れたかけがえのない第一歩です。条約の批准に向けて、その前提となる国内法整備について、この秋の労働政策審議会での議論でフリーランス・自営業者(多くの芸能人を含む)への保護を中心に実効性の高い対策を進めていかなければなりません。

 メディア・文化・情報関連の職場で働く労働者がつくる「日本マスコミ文化情報労組会議」(MIC)では、昨年4月の財務事務次官によるテレビ朝日記者に対するハラスメント問題を受け、特にセクシュアルハラスメントに関する実態調査を重ねています。

 「メディア業界が足元で起きているハラスメントに向き合ってこなかったために、被害を受けても泣き寝入りを強いるような社会をつくってしまっていたのではないか」という反省のもと、今春には、職域を越えた院内集会「いま、つながろう セクハラのない社会へ」を開き、職域横断のセクシュアルハラスメントアンケートも実施しました。

 1061人から回答を得たこの職域横断のアンケートからは、勇気を出して相談した場で傷付けられて失望し、追い詰められていく被害者の実態が浮かび上がっています。

 相談を受けた人事担当者や上司、相談窓口の対応が不適切なケースも多く、「隙があったのでは?」「誤解を与える言動があったのでは?」などと被害者側の過失を問われたり、いわれのない噂をたてられたりするなど、被害者の方が職場に居づらくなるケースも散見されました。中には、調査もせず放置したり、被害が認められても、加害者を処分せず昇進させたりしているケースもあります。

 不適切な相談が新たな「二次被害」を生み、被害を拡大させているといっても過言ではありません。また、加害者が被害者よりも役職や関係性において優位な立場にいることが多いなか、組織のなかにおいて加害者をかばう対応も繰り返されています。こうした構造が、ハラスメント被害に遭った人のうち、実際に相談・通報をした人がわずか27.3%にとどまったという実態につながっています。公平で、実効性のある救済をすべての人に担保するために、第三者機関などによる相談窓口や救済機関の監視・チェックが必要です。また不適切な対応だった場合、外部や第三者機関が対応できる仕組みが必要です。

 私たちはいま、泣き寝入りが常態化していた財務事務次官問題以前の社会に後戻りさせてしまうのか否かの岐路に立たされているという危機感を持っています。せっかく声を上げ始めた被害者たちが、絶望して再び沈黙を強いられる状況にならないような取り組みを進めていかなければなりません。

 長い年月を経ても、被害のトラウマが残り、記憶から消すことが難しいのがハラスメントの特徴です。被害そのものから及んだダメージだけでなく、訴えても被害を放置され、バッシングされるなど、その後の対応に傷つき、就労不能に陥り、休職や離職に追い込まれた仲間もいます。戻りたくても戻れず、収入を失い、健全な社会生活の継続が出来なくなるケースも存在します。被害者の尊厳を著しく傷つけるだけでなく、経済的打撃も与えるのです。経営側にとっても大切な人材を失い、企業ブランドにも傷がつくことは大きな損失です。加害者も被害者も出さないことが経営側の責務です。立法、行政、司法などの公的機関も当然、その重い責務を負っています。

 グローバルな人権問題であり、健康や労働への参画などにも影響するハラスメント問題に対する実効性のある法整備は急務です。「ハラスメントのない社会」の実現に向けて、厚労省及び貴分科会において、下記の事項に積極的に対応していただくよう要望します。

― 記 ―

●国会の付帯決議の速やかな具体化

 今年の通常国会でパワーハラスメント防止法案などが成立した際に、衆参各院の厚生労働委員会で行った付帯決議では、「ハラスメントのない社会」の実現に向けて早急に取り組むべき課題が整理されています。国権の最高機関が全会一致で示した意思を重く受け止め、速やかな具体化を求めます。

● 「第三者」 からの被害やフリーランス ・就職活動生など を保護対象に

  「顧客」や「取引先」「取材先」は業務遂行上の必要からやむを得ず付き合っている相手で、「職場」という概念の領域です。これは厚生労働省の男女雇用機会均等法のマニュアルなどにおいても示されてきた考え方です。

 日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)のセクシュアルハラスメントに関するアンケートでも、「第三者」から被害を受け、「仕事に支障が出るかもしれないから」などの理由で泣き寝入りしている実態が浮き彫りになりました。経営側の事後措置義務が発生し、被害者が保護されることを明確にするため、業務上のハラスメントの「加害者」として、「顧客、取引先、取材先など 」の第三者を明記して、経営側が措置を行うことを明文化するよう求めます。また、経営側が保護する「被害者」の対象には、 フリーランスや就職活動中の学生、教育実習生 、研究者 等 など も含めるよう求めます。

 協同組合日本俳優連合、一般社団法人プロフェッショナル パラレルキャリア・フリーランス協会、MICフリーランス連絡会が 19年9月9日に 厚労省及び貴分科会 へ 提出した「フリーランスへのハラスメント防止対策等に関する要望書」について も 、MICとして支持しています。国会の付帯決議に沿って、 対策を進めることを強く求めま す。

●被害者の相談・救済体制の強化

 セクシュアルハラスメントを中心に、ハラスメント行為が認知されても、「被害者が加害者を陥れよう として訴えた」などという誤解や偏見が生まれ、バッシングを されるなどの二次被害を受けるケースが後を絶ちません。そのために職場の人間関係が損なわれ、被害者が精神的に追いつめられて退職するケースもあります。

 ハラスメントは身体的・精神的ダメージを伴う人権侵害であり、休職や離職などの経済的な打撃を招く危険もあります。被害者が通常の社会生活や業務に戻るには、 加害者の業績や人柄など のフィルターを排除 し、 ハラスメント行為 事実のみに目を向け た 被害者ファーストの迅速かつ丁寧な 調査・判断による、加害者への 客観的な 処分 がなにより重要です。 ほかにも加害者から被害者に対する謝罪や賠償などのけじめが必要ですが、企業内の調査で「加害行為」と「被害」の判断をあいまいにして被害者を異動させる、あるいは加害者と被害者の両者を異動させるという、被害者にとって不利益な人事措置 で解決を図 ろうとする 対応 もたびたび起きています。「事後措置義務」を規定し、被害者の相談・救済体制を強化することを求めます。

 現状では、従業員規則など社内規定に基づいて、ハラスメントの実態を調査・認定し、人事処分などの意思決定を行 う機関における男性の割合が高い状況にあります。特にセクシュアルハラスメント の調査・認定・ 処分決定 は、男性のみに偏ると、男性の感覚で処理をしがちで、多くの場合は女性である被害当事者の声が届きにくいのが実態です。事後の人事措置を行う社内機関のジェンダー比率も均等を目指して見直しを義務化するよう求めます。

●加害者への対応(罰則強化など)

 ハラスメント行為が認定されても、加害者に対しては従業員規則などに基づく懲戒処分を行うか、雇用など生活全般にわたる影響を避けるためにあい まいな判断をくだすかという、二者択一になりがちで、労働組合でも対応に苦慮しているケースがあります。また、ハラスメントの加害・被害の有無をうやむやにして終わらせた場合、加害者側にハラスメント行為の 自覚がないまま、別の職場で加害を繰り返す事例も数多く起きています 。

 特にセクシュアルハラスメントに関して、「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(平成18年厚生労働省告示第615号、最終改正・平成28年8月2日厚生労働省告示第314号)において、「職場におけるセクシュアルハラスメントが生じた事実が確認できた場合においては、行為者に対する措置を適正に行うこと」と規定されていますが、現状、措置が適正に行われないため、被害者が泣き寝入りしているケースが散見され ていることはアンケート 結果でも 明確で す。 より実効性を高めるため、国家公務員を対象にした人事院規則のような形で処分の目安に関する規定を各事業主に設けさせることを指針上義務付けることを求めます。

 また、 被害と加害のこれ以上の負の連鎖を止めるために、加害者への処分制度として「加害者への教育的指導」を 取り入れ、それに対する基本的姿勢や必要性を法律で規定するよう求めます。 また、その教育的指導を行うために、早急に政・労・使によるセクシュアル ハラスメントなどのハラスメント 防止 教育プログラムの研究、制度実施をサポートするための専門機関設置や更正プログラム作成と導入を規定するよう求めます。
セクシュアルハラスメントの加害の中には、被害者への執着から加害に結びつくストーキングや加害者側が無自覚に権利侵害を行っているケースもあります。そうした場合、加害行為をやめさせようと加害者に口頭や文書、処分などを講じて指摘・指導 しても、加害者側の自覚につながりにくく、加害が繰り返されるケースがあります。繰り返されるセクシュアルハラスメントに対して、雇用側が処分しあぐねている間に被害は拡大していきます。様々な形態のセクシュアルハラスメントに応じた対策が求められており、対策を講じるための研究を進め、効果的な対応策を広く周知することを求めます。

●性暴力やセクシュアルハラスメントの証拠採取の強化

 セクシュアルハラスメント被害のなかには、 強制性交 ・準強制性交、強制わいせつ罪の事案も含まれていますが、密室で証拠がないことを理由に、経営側が適切な 処分を行わない事例があります。被害者は「訴えても何も変わらない」と泣き寝入りし、加害者が再犯を繰り返す一因です。性暴力やセクシュアルハラスメント被害者の対応は各都道府県の警察などの裁量によって異なっており、証拠を採取できるレイプキットや技術が産婦人科や救急病院などにもあることも広く知られず、十分な証拠採取に至っていない実態があります。これでは被害は減りません。性暴力やセクシュアルハラスメントの証拠採取について、国がレイプキット、専門カウンセラー、セカンドレイプにならない聞き取りができる警察官 ・看護士 ・助産 師の育成 など証拠採取に関する予算などの万全の措置を講じ、配置・配布される場所を 周知 するよう求めます。

●包括的な法規制の整備

 日本では現在、男女雇用機会均等法 など で、セクシュアルハラスメントやマタニティハラスメント、パワーハラスメント が 限定的に規制されていますが、職場におけるハラスメント(いじめ・嫌がらせ)全般を規制する法律がありません。各種ハラスメントは、個々の明確な区分が難しく、複合的な事案として発生することも多いので、法律ごとに監督行政が縦割りにならないよう、相談窓口の設置や予防対策など、総 合的に行うことが求められています。このため、セクシュアルハラスメント、パワーハラスメント、マタニティハラスメント 、ジェンダーハラスメント、家事労働を含めたあらゆる 労働の場で のハラスメント行為 を包括的に禁止する法律を制定することを 改めて 求めます。

 また現状は、セクシュアル ハラスメントを含め、どのような行為がハラスメントにあたるのかについて、法的に明確な基準がありません。このため、労働局は被害者が求めている違法性の認定に踏み込まず、企業内での調査でも 、加害者と被害者の「受け止め方の違い」で処理されたり、「事を荒立てないように」と経営側に都合のよい解釈で扱われたりするケースが後を絶ちません。

 国を挙げてのハラスメントの実態調査の実施や過去の判例などに基づいて、職場におけるハラスメントの種類や判断基準、禁止行為などを明確に禁止する ことを求めます。

 

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