中小への「残業しわ寄せ」監視 4月から上限規制適用
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2020/2/17 23:00日本経済新聞 電子版
中小企業について1年間猶予されていた残業時間規制が4月から始まる。「月100時間未満、年720時間」を上限とする規制が先行している大企業からしわ寄せがいく形で、中小の長時間労働が続くことのないように政府は監視を強める。経済産業省は下請中小企業振興法に基づく行政指導も視野に入れる。労働時間を短縮し、生産性向上をめざす国際的な競争は激しく、人手不足のなかで働き方改革の成果が問われる。
「金曜に発注があり、土日にやるよういわれた」「深夜に下請け社員だけが呼び出された。発注元の大企業からしわ寄せがきている」――。中小企業の実態調査を進める経産省の「下請けGメン」に中小企業からこんな声が寄せられている。
残業時間に上限を設けた働き方改革関連法は2019年4月に大企業に適用され、20年4月から中小企業も対象になる。原則は月45時間、年360時間で、労使で合意すれば年720時間以内までは可能。月100時間を超えてはならず、2〜6カ月平均で月80時間以内といった内容だ。建設業など猶予期間が続く一部業種を除き、違反すれば30万円以下の罰金か6月以下の懲役となる。
大企業ではすでに従業員の勤務時間管理が厳しくなっている。その分、無理な短納期発注や休日出社の強制など、下請け中小企業へのしわ寄せが強まっているとの指摘がある。公正取引委員会の幹部も「短納期発注などが目立つ」と話す。
企業への監視を強めるため、経産省と厚生労働省は合同で働き方改革の対策チームを立ち上げた。牧原秀樹経産副大臣は初会合で「働き方改革に前向きに取り組んでもらうため、制度の周知に努めたい」と強調した。同時に、公取委や経産省は大企業など約20万社に書面で中小企業へのしわ寄せを防ぐよう要請した。
経産省などは「下請けGメン」などを通じて企業側への聞き取り調査を進める。法律に違反する行為があれば、下請中小企業振興法に基づく行政指導や助言をする。経産省は中小企業との取引の適正化を定めた同法の活用も視野に入れ、同様の事例が起きないようにけん制を強める。
国際的にみて日本は長時間労働が目立つ。週49時間以上働く就業者の割合は18年時点で全体の19%を占め、10%前後の欧州主要国の2倍だ。
中小の労働環境はさらに厳しい。少ない従業員数で取引先の発注に応えるため、残業や休日出勤に依存せざるを得ない状況が続いている。最低賃金の引き上げやパート労働者への社会保険の適用拡大などもあり、経営側の負担感は増している。
中小企業は労働生産性の停滞が続いている。法人企業統計調査を使って中小企業庁がまとめた資料によると、製造業では大企業が09年度から17年度の間に約40%向上した半面、中小企業は11%の上昇にとどまった。非製造業でも同じ期間に大企業が23%、中小企業は8%と改善の幅に差がある。
企業側に改革の負担を押しつけるのは限界がある。IT(情報技術)の活用拡大や大企業を含めたサプライチェーン全体の見直しを官民挙げて進めるなど、産業全体の生産性を高める取り組みと働き方改革を同時に進めることが欠かせない。
■残業時間規制
働き方改革関連法で初めて罰則付きで時間外労働の上限を設けた。残業するためには企業の労使が法律に基づく「36(サブロク)協定」を結ぶ必要があり、「月100時間未満、年720時間」が上限となる。まず2019年4月から大企業に適用し、中小企業は20年4月から対象となる。
建設業など人手不足が深刻な一部業種についてはさらに猶予期間を長くしている。違反があれば30万円以下の罰金か6月以下の懲役を科せられる。