<働き方改革の死角>高齢フリーランス 審議わずか 「一括法案」衆参委5日で終了へ
https://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/202003/CK2020032702000153.html
東京新聞 2020年3月27日 朝刊
企業に65〜70歳の就業機会確保の努力義務を課す高年齢者雇用安定法(高年法)改正案は26日、衆院通過を受け参院審議が始まり大詰め段階だ。安全網のない「高齢フリーランス」を増やす危うさを審議でも指摘されながら週明け早々の成立が確実視される。「スピード審議」に労働関係者から批判の声が出ている。 (生島章弘)
写真
「労働法で守られない高齢者をつくってしまうのは問題だ」
二十六日の参院厚生労働委員会でも、野党は新制度を厳しく批判した。
改正案は企業に対し、いったん退職した社員を個人事業主として独立させ、業務委託契約で仕事させることも認めている。定年前同様、企業の指揮命令下で仕事を続けさせながら、身分だけ「個人事業主」に切り替える事態が懸念される。審議では残業上限や労災の対象にならない高齢者が増加、実態は雇用なのに請負のようにみせかける「偽装請負」の温床になる恐れが指摘された。
導入する際の「抜け道」にも疑問が出た。
業務委託契約を導入するには労働組合などの同意が必要。ただし選択肢に定年延長など雇用継続契約が加わっていれば、こうした手続きは不要。このため形だけ継続雇用も選べる制度をつくって労働者側の関与を排除し、実際には「雇用によらない働き方」しか認めない「抜け道」を利用する企業が現れる可能性がくすぶる。
幾多の懸念にもかかわらず衆院の委員会審議は実質二日間で終了。参院でも三日間の委員会審議を経て、週明け三十一日には本会議で成立する見通しだ。スピード審議の背景には、労働者保護につながる別の法案と「抱き合わせ」での一括法案になっている事情がある。
特に労災保険法改正案は副業を持つ人が働き過ぎで倒れたり亡くなったりした場合、本業と副業の労働時間を合算して労災認定する。従来は片方の労働時間しか勘案せず、労災認定が難しかったのを是正し、労働者や遺族救済につながるだけに野党の大勢も支持する。
政府の狙いは、こうした野党が賛同する法案と高年法を抱き合わせ、徹底抗戦しづらい環境をつくることとみられる。政府はかつて専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を立法する際にも、野党が反対しにくい残業規制や正規・非正規労働者の格差縮小を目指す「同一労働・同一賃金」法案と一本化した。こうした手法は安倍政権の常とう手段だ。
日本労働弁護団の水野英樹幹事長は「高齢者の働き方に大きな影響を与える法案なので本来なら時間をかけて慎重な審議が必要。個別に賛否を問うのが筋だ」と苦言を呈している。
写真
<高年齢者雇用安定法の改正案> 現行法は公的年金支給が65歳からになったのに対応、希望する社員を定年延長などの制度導入で全員65歳まで雇うことを義務づけている。改正法案はさらに2021年度から企業に65〜70歳の就業支援の努力義務を課す。定年延長などに加え、個人事業主などで独立する高齢者を業務委託契約で支援するなどを選択肢としている。