私立学校における長時間労働の改善について2 ~関西大学中等部高等部における経験をもとに~

 第2回は、関西大学中等部高等部における残業認定の経過についてまとめます。

関西大学中等部高等部は、2010年の開校以来全く時間管理が行われず、「勤務の多寡に関わらず教育職員調整手当を支給」し、残業代の支払いを全く行っていない、違法経営を行ってきました。その中で長時間労働が蔓延し、精神的に追い込まれる先生が多くいました。その中で、関西大学初等部中等部高等部教員組合は、違法な長時間労働の是正を求め、残業の抑制手段としての残業代の認定について求めてきました。

○関西大学中等部高等部における残業認定の経緯
① 残業認定以前の状態
関西大学中等部高等部では、本俸と教育職員調整手当以外に学級担任手当、授業担当手当、主任等手当が支給されてきた。しかし、教育職員調整手当については「勤務の多寡に関わらず支給する」として、時間管理を行わず、長時間労働が放置されていた。この「教育職員調整手当」は、関西大学の同じ併設校の第一中学校・第一高等学校にはなく、第一中学校・第一高等学校の教諭の本俸は、中等部高等部の教員の「本俸と教育職員調整手当の合計額」と同額である。つまり、関西大学は中等部高等部の教員に対し、教育職員調整手当を違法に固定残業代として支給することで、中等部高等部教員に対し「青天井の残業」を強いた。その結果、若手の教員を中心に精神的に体調を崩す教員が常にいた。
2016年度に職場環境に関する課題検討会なる話し合いが、労働組合・管理職・法人本部の間で行われたが、関西大学は実効性のある対策を打たなかった。2017年3月に組合員による茨木労基署に対する申告が行われた。
② 残業の認定への経緯
 2017年4月茨木労基署は労働時間管理の実行と未払いの残業代の支払いの是正勧告を行った。
 さらに、労働契約時に示されなければならない雇用条件、つまり勤務時間の明示、残業時間・残業代の明示、に関して是正指導を行った。
 また、関西大学は「教育職員調整手当は固定残業代である」と言いながらも、「残業は発生しない働き方をしていた」と矛盾する主張を行い、残業に関する労使協定である36協定を締結することを怠っていた。固定残業代を規定することで、残業を際限なく行わせておきながら、36協定の締結を怠るブラック経営者は多い。しかし、36協定なしに残業させることは、労基署が厳しく是正指導する労基法違反の一つである。当然、36協定の未締結については、茨木労基署も関西大学を厳しく指導した
 36協定締結には「残業の定義」に関する合意が必要になる。「残業の定義」が下記の挙げた10項目の教員の業務の内容である。
 この合意された10項目に基づき、残業した際には残業代が支払われることとなった。
 ただ、この項目を認めさせるにあたり、部活動の指導については、関西大学は「自主的な活動」と主張し、労働時間にカウントすることに難色を示した。

また、部活動の指導時間をカウントすると「36協定の残業時間制限をかんたんに超えてしまう」などと違法状態を認めながらも是正するつもりのないようなことを団体交渉で言っていた。労働時間管理をキチンと行うと違法状態になるので、部活動を労働時間として認めない、とするブラック経営者は多い。
 しかし、労働組合は教員の仕事の定義と残業に関する36協定は表裏一体であることから、教員の仕事の定義に合意できなければ36協定は締結できない、と交渉。茨木労基署の厳しい指導もあり、次の10項目を教員の仕事の定義とし、36協定を締結するに至った。
<1>教員の仕事の定義10項目
1授業準備等(考査や小テストの作問・採点含む)
2補習
3保護者対応(電話対応含む)
4生徒対応
5特別指導等の生徒指導対応
6業務に関わる会議・打ち合わせ等
7入試業務
8教材研究
9部活動指導
10登校指導

関西大学中等部高等部における業務の中で、教材研究や部活動指導を残業認定の基礎となる、教員の仕事の定義として認めさせたことは、大変意義のあることである。

<2>休憩時間の取得
休憩時間の取得ができず業務を行った場合は超過勤務として取り扱う

<3>基礎賃金について
 関西大学は、当初、本俸と主任等手当のみ基礎賃金として参入していた。(違法な固定残業代は除外)
労働基準法37条第5項の規定においては、割増賃金の基礎となる賃金から除外できるものとして
1家族手当、2通勤手当、3別居手当、4子女教育手当、5住宅手当、6臨時に支払われた賃金、7一ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金
を規定している。ただし、住宅手当については、持ち家・賃貸等の労働者それぞれの額が違う場合は除外することはできず、基礎賃金に参入しなければならない。

この7項目の手当以外のものに関しては、基礎賃金として計算しなければならない。
関西大学は、本俸と主任等手当以外は基礎賃金に算入していなかった。学級担任に対して毎月支払われる学級担任手当や、決められた授業時間数を超えた場合に毎月支払われている授業担当手当について、関西大学は「超過勤務手当だ」と主張し、その算入に抵抗していた。しかし、茨木労基署の厳しい指導によって学級担任手当と授業担当手当が基礎賃金として算入されることとなった。(関西大学が主張していた、学級担任手当と授業担当手当は超過勤務手当の一部である、という主張は茨木労基署によって退けられた。)手当が、基礎賃金として参入されるべきものであるか、ないか、については、管轄の労基署の指導を仰ぐべきである。民間企業で認められている手当は当然私学でも認められる。ブラック経営者は、残業手当を値切るために、これらの基礎賃金に参入すべき手当を除外していることが多い。

○過去の残業の認定と支払い
 しかし、過去の残業の認定に関しては、労基法の規定によって2年で時効が主張できる。
 関西大学では、2017年4月に茨木労基署から是正勧告が出た。しかし、関西大学は即座に調査せずにグズグズと引き伸ばした。結局過去の残業時間調査が行われたのは、2017年8月になってからであった。
 一般的に過去の残業時間調査を行う場合、職場に残されている残業を認定することができる記録を調査する。また、本人の自主申告をもとに残業認定される。関西大学では、PCのログオンオフ記録が残されていた。
 しかし、関西大学では本人申告に対する残業調査記録を行った後、「PCのログオンオフ記録は参考記録だ」「PCのログオンオフ記録だけで残業認定は適正でない」と、自ら行った「調査は不正確」と認定した
 ブラック企業では、「残業時間は不明確」「本人の記憶だけでは認定できない」と主張し、客観的な記録であるPCのログオンオフ記録を採用しないことがある。「残業記録が不明確なので、一部の残業代だけを認定する」と残業代を値切ることはブラック経営者の常套手段である
 関西大学が調査した残業時間による2016年度の残業代は1億円に及ぶものになった。しかし、関西大学は「すべてが残業とは認められない」とし、その1/3に当たる3800万円程度が妥当と残業代を値切った。労働組合からは「調査に基づく全額支払い」を要求したが、2020年に至る今日までその全額の支払いに応じないばかりか、労働組合との合意を待たずに2020年3月、値切った金額での残業代の支払いを強行した。

新型コロナウィルス感染拡大で社会が混乱する中での支払いの強行は、暴挙としか言いようがない
 さらに、2015年度の調査については、「調査は困難」と主張し、調査すら行わず、2016年度の残業代と同額を支払うという暴挙に出た。

 残業認定を行う場合、本人の記録、事業者の記録が認定根拠となる。労基署もその証拠がないと動かないのが実情である。私達が残業を申告する場合、本人の手控えの記録などがないと認定で争うことになる。ブラック経営者は自分の労務管理の杜撰さを棚に上げ、支払いを行わないようにする。このような横暴を許さないためにも労働者自身が自己の勤務の記録を残しておかねばならない。

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第3回では、これまでの経緯のまとめと関西大学中等部高等部での不当解雇事件について述べます

この記事を書いた人

伏見太郎