第49回 世界標準は「同一労働同一待遇」 非正規差別を最高裁が容認したことを批判する

 正規雇用と非正規雇用の待遇格差是正を求める裁判での最高裁判決(10月13日の大阪医科大学事件とメトロコマース事件の2事件と10月15日の日本郵政〔東京、大阪、佐賀〕の3事件)が注目されています。日本郵政3事件では、最高裁は多くの手当格差を不合理と認めました。日本の職場では類似の手当格差が広がっており、今後、その改善が必要になります。裁判闘争の大きな成果です。

 その一方で最高裁は、①大阪医科大学事件と②メトロコマース事件では極めて不当な判決を下しました。高裁が担当職務の実態を細かく比較して、正社員の賞与の60%(①事件)、退職金の4分の1(②事件)の支払いを命じていたのに、最高裁は、「有為の人材として正社員は採用された」からと、格差を容認して高裁判決を取り消す、きわめて不当な判断を下したのです。格差是正への歩みに冷水を浴びせたのです。

 「同一労働同一待遇」は最も基本的な働くルールです。ILO(国際労働機関)は、100号条約で「同一価値労働同一待遇」原則を確認し、日本政府も同条約を批准しています。

 1970年代後半から、パート、有期、派遣などの雇用形態が増加しましたが、正社員と比べて大きな待遇格差がありました。1996年、丸子警報器事件で長野地裁上田支部が、同一労働に従事していたパート社員について「正社員との2割以上の格差は公序良俗に反し違法である」と判決しました。

 EU(欧州連合)は非典型雇用(パート、有期、派遣)と正社員との「非差別(non-disclimination)」を定める指令を出しました(1997年パート指令、1999年有期雇用指令、2008年派遣労働指令)。韓国も、いわゆる2006年の「非正規職保護法」(勤労基準法改正、契約職法制定、労働委員会法改正の3法)で差別待遇を禁止しました。国連女性差別撤廃委員会(CEDAW)は、非正規雇用が多い女性労働者の差別是正を日本に勧告し(2009年)、ILOは均等待遇を定めるパート条約(1994年)を採択するなど、日本も国際動向に応えて非正規雇用の格差是正などの改善措置を迫られることになりました。

 そして、「派遣切り」(2008年)を機に、非正規雇用の弊害が大きな問題になり、改正労働契約法(2012年)は、有期雇用について①5年での無期雇用転換(18条)、②合理的理由のない雇止め禁止(19条)、③不合理な格差禁止(20条)を定めました。これら3条はセットで、有期雇用の無期転換促進を目的にするもので、今回の最高裁判決も同法20条をめぐる事案でした。

 労働契約法20条に関連する多くの裁判で、非正規雇用労働者の格差是正で一定の改善を認める下級審判決が出ました。しかし、最高裁は、正規雇用との身分的格差を容認する時代錯誤的な立場に基づいて、差別の実態や労働者の切実な声を無視して「人権を守る最後の砦(とりで)」という期待に背を向けたのです。

 安倍政権は、「同一労働同一賃金」を標榜し均等・均衡待遇をめざす法改正だと宣伝して「働き方改革」関連法(2018年)を成立させました。しかし、新たな「パート・有期労働法」は格差是正という点で多くの不十分点を含んでいます。

 欧州や韓国では、労働組合を先頭に格差是正の協約・立法を実現しています。ILOは、2016年に刊行した『世界の非標準的雇用』の中で、「均等待遇を確保することは、公正の問題として、職業上の地位に基づく差別を回避するためだけでなく、非標準的雇用が、特定の労働者集団に劣悪な諸条件を提示することにより、人件費を削減することのみを意図して用いられないようにするための方法としても重要である」と強調しています。こうした非正規差別を無くす国際動向に学ぶことが重要です。そして、科学的職務評価に基づいた「同一労働同一賃金」の考え方を基本に、職場での格差是正と社会的議論を広めることが課題となっています。

この文章は、しんぶん赤旗日曜版(2020年11月22日)に掲載した記事を補正し、若干の追加をしたものです。

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