2022年2月9日(水)朝日新聞13版「時時刻刻」で、「『陽陽介護』窮余の策」、「『休業できぬ』感染者出動」「『誰が面倒を』検査避ける」との記事が掲載されている。
高齢者施設で新型コロナウィルスの要請になった職員が、陽性の利用者を介護する、所謂「陽陽介護」の実態が報告されている。
全国で、福祉施設だけでなく、陽性者の自宅療養、濃厚接触者の自宅待機によって、人手不足の状況が報道されている。介護施設の現場は、コロナ感染拡大の中で、感染者の介護と療養を兼ねなければならない。現実の日々の生活の維持には人員が必要だ。
クラスターが発生した施設の現実
記事は沖縄県でのグループホームを経営する男性に取材されている。この施設では、1月下旬に利用者1名の発熱・感染が判明。その後、利用者9名中8名が陽性、職員12名中9名の陽性が確認された。県内病床の逼迫から施設内療養となった。県内高齢者施設間での職員の派遣制度があるが、「すぐに回せる人材はいない」との回答だった。「どうしようもない状態だった」と。当然である。この回答を得た瞬間の男性の心境は想像に余りある。呆然としたのではないであろうか。
施設では、無症状で基礎疾患のない職員が勤務にあたり、保健所から感染対策の指示のもとに介護が行われた。保健所から派遣された医療チームが訪れたが、「状況は分かっているようだったが、特段、何も言われなかった」とある。応援が来るまでの5日間、「陽陽介護」が行われた。介護現場の機能を維持することと、感染対策の両立を図ることが困難である現実がある。
また、東海地方の高齢者施設の事例で、その施設長は「微熱やのどの痛みなどを感じていたという」とあった。しかし、施設長は検査を受けなかった。ここの施設も入居者や職員ら25人以上が感染し、入院できたのは数人だけだった。介護と看護の両方を担う日々が続いたとから、施設長がいかに追い込まれていたのかが分かる。このような現実に対して、誰が非難できるのであろうか。
しかし、記者の取材に対して、厚労省の担当者は、「そういうケースは想定していない。どうなっているのか把握した上で対応することになる」と言っている。この「対応」はどのようにする、と言っているのであろうか。行政は概して現場の実情を鑑みず、「法令から逸脱した業務」として「指導」したりする。「想定していない」とのコメント自体が「他人事」のように聞こえるのは私だけであろうか。
保健所の「合理化」を掲げ、保健所拠点を減らし続けた自治体、福祉の外注化、行政が本来維持しなければならない機能を「合理化」「スリム化」している現実の中で、記事のような実態を私たち市民も意識していかなければならないのではないだろうか。