第88回 韓国の李在明・新政権 労働政策に注目

韓国の第21代大統領選挙

 2025年6月3日に行われた韓国の大統領選挙で李在明(イ・ジェミョン)候補が49.2%の得票を得て第21代大統領に就任し、早速、従来の政権とは大きく異なる政治・行政を開始しました。
 今回の選挙は、尹錫悦・前大統領の昨年12月3日の「非常戒厳」宣布、国会での解除決議以降、大統領弾劾に進み、4月4日の憲法裁判所での罷免判決を受けて、期限ぎりぎりの60日後に行われました。
 選挙では、最大野党「共に民主党」などが推した李在明候補、前保守政権与党の「国民の力」が推した金文洙(キム・ムンス)候補、保守単一化を拒否した改革新党が推す李俊錫(イ・ジュンソク)候補、民主労働党が推し、最も進歩的な主張をする権英国(クォン・ヨングク)の4候補が主要候補として活発な論戦を展開しました。得票結果は、李在明(49.42%)、金文洙(41.15%)、李俊錫(8.34%)、権英国(0.98%)ということで、進歩陣営と保守陣営が拮抗した中で、大方の予想通り、李在明候補が勝利しました。*

* 日本のメディアは、日韓関係という視点からこの大統領選挙を報道することが多く、韓国の中での大統領選挙の意義が十分に伝わりません。
そこで、私は主に、WebやYoutubeの韓国ニュースを通じて選挙の動向に注目してきました。とくに日本語でとても参考になったのは、徐台教(ソ・デギョ)さんが伝える詳しい韓国Newsでした。

選挙で争われた重要項目=労働・社会保障政策

 今回の大統領選挙では、前大統領の罷免がきっかけになるなど、民主主義政治のあり方だけでなく、生活、経済、外交など多くの争点がありました。その中で、労働・社会保障をめぐる問題が大きな争点となったのが大きな特徴だと思います。
 候補者も、進歩陣営の李在明候補、権英国候補は労働弁護士出身で労働者の権利擁護で活動してきました。また、金文洙候補は、労働問題を専攻し、さらに初期には労働運動家として活躍し、その後、保守政治家に転身し、前政権では雇用労働部長官を務めるという経歴をもっていました。

 私自身、2000年5月、韓国非正規労働センター創立シンポジウムで講演したときに、金文洙議員(当時、保守野党所属)が参加・発言され、懇親会で交流しました。権英国候補は、民弁(民主社会のため法律家の集い)・労働委員会の委員長をされていましたが、2010年代に行われた民弁と大阪労働弁護団との交流などの機会に大阪とソウルで何度か親しく交流したことがあり、正義党(民主労働党の前身)の委員長をされた後もWebなどでその活躍に注目していました。
 このように、今回の大統領選挙は、その経歴から主な候補者が労働問題の専門家と言える方々でしたので、労働政策をめぐる議論がどのようになるのか強い関心を持って見ることになりました。

 労働関連の各候補の政策比較については、市民団体の「経実連(経済正義実践市民連合)」の「公約検証団」が、中央選挙管理委員会に提出された10大公約と公式発言を中心に各候補の労働公約を比較・評価していました。そして、ホームページに「第21代大統領選候補別の10大公約比較評価」を各分野毎に掲載しており、その第6回が「労働編」でした。この経実連の比較表が興味深いものでしたので、これを日本語訳してみました。

(経実連)第21代大統領選候補別の10大公約比較評価「労働編」

李在明候補は、「すべての働く人の権利が保障される社会」を旗印に掲げ、包括賃金制禁止、同一労働同一賃金基準用意、特殊雇用およびプラットフォーム労働者保護、産業別団体協約促進、週4.5日制導入など多様な公約を提示した。全般的に非正規職、低賃金労働者、女性、障害者、芸術家など多様な階層を包括しようとする意図が見え、発展的な労使関係構築などのための政策も具体的である。 しかし、現実の可能性と実行ロードマップが明確でない公約も一部存在し、特に中小企業や自営業雇用主との利害調整方案が抜けているという点は補完が必要である。 青年層や中高齢層を狙った働き口対策も相対的に不足している方だ。

金文洙候補は、労使合意を基盤にした週52時間制緩和という立場を除けば、事実上独立した労働政策は提示しなかった。 小商工人政策の一部として間接的な働き口対策が登場するが、全体労働市場構造に対する問題意識や政策哲学が不在な状況である。 雇用労働部長官および大統領直属経済社会労働委員会委員長を歴任した人物として、このような政策不在は深刻な問題と指摘される。

李俊錫候補は、外国人労働者ビザ制度と定着支援強化に言及したが、内国人労働者に対する労働権保障や労働市場構造改善のための政策はほとんど提示しなかった。 労働に対するビジョン、目標、哲学が公約集に不在であり、事実上労働政策が空になっている水準である。

権英国候補は、労働者の企業買収支援制度、全国民就業先保障制、黄色い封筒法通過、産別交渉制度化、青年雇用保障、賃金公示制など最も進歩的な労働改革案を提示した。 労働基本権保障と団体交渉拡散を中心に置いて、社会安全網強化と労働民主主義実現のための政策構成の方向性が明らかである。 ただし、進歩的な方向性に比べて制度化戦略や財源調達方策など具体的な実現計画は相対的に不足している。

国内外で争われる韓国の労働基本権

韓国では、労働者に過酷な労働条件を強制し、民主的な政治体制を拒否していた軍事独裁政権の下で、韓国は世界が注目するほどの「経済成長(漢江の奇跡)」を成し遂げました。
 そして、1987年の民主化運動の高まり以降、民主的な労働組合が急激に結成され、活発な活動を始めました。しかし、民主化された後も、労働組合に対する独裁政権下の法制度は維持され、労働基本権に対する刑事、民事上の多くの制限が続いたのです。とくに、公務員や教員は労働組合結成する認められず、文民政権とされた金泳三大統領が制定した1997年労働組合法は、団結権、団体交渉権、争議権に対して多くの禁止・制限条項を含むもので、労働組合の活動を保障するというよりは、その活動を規制するという意味で本質的には「治安警察法」であると評価されるほどでした。実際、警察による組合活動や争議行為への弾圧が続き、組合役員が、業務妨害罪などで逮捕されたり、刑事処罰を受けることが日常化しました。

 これに対して、労働組合側は裁判で闘いましたが、保守的な裁判所で労働側が敗訴することが少なくありませんでした。そこで労働組合や市民団体は、国連、国際労働機関(ILO)、OECDなどの国際機関に労働人権違反の実態を訴えました。その結果、国際機関からの勧告や特別監視が相次ぐ中で、韓国政府は、国際社会に民主的国家に変わったことを示す必要が生まれることになったのです。

 そして、金大中政権の時代に独裁政権時代の「複数組合禁止」を一部緩和して「民主労総」を合法労組と認めることになり、教員については、団結権と団体交渉権を認める「教員労組法」を制定することになりました。また、盧武鉉政権の時代には、2006年、特別法としての「公務員労組法」を制定しましたが、一般の労働者と同様に「労働組合法」を公務員にも適用して、労働三権をすべて認めることを求める公務員の労組(「全公労」)のストライキを弾圧して、多くの公務員を免職を含む過酷な処分で弾圧しました。
 その後、労働組合が、国内外で粘り強く労働基本権回復の取り組みを続け、文在寅政権の時代の2022年になって、ようやくILOの基本条約である87号(結社の自由)、98号(団結権・団交権)の二つの条約を批准しました。

 しかし、尹錫悦政権になって、再び労働組合への厳しい弾圧政策が強まり、文在寅政権が進めた労働政策を逆戻りさせ、貨物連帯や建設労組などへ強圧的な措置を繰り返しました。これには、国連人権委員会やILOから韓国政府への厳しい勧告が相次ぎました。また、野党が多数となった国会では、労組の活動を制限する規定の削除・修正を導入する「労組法2・3条改正(黄色い封筒法)」案が二度も可決・通過しましたが、尹錫悦大統領の二度の「拒否権」行使によって法律として成立させることができませんでした。*

 

*このような韓国における集団的労働法の約40年の経過と動向をめぐっては、私の最近の論考「韓国の集団的労働関係法をめぐる新動向-ILO基本条約の批准を中心に」労働法律旬報2079号(2025年5月10日)8頁以下を参照して下さい。
 この論文の目次は、「一 民主化以降の集団的労働関係法、二 行政・裁判所による労働基本権制限、三 国際機関から問われる韓国の集団的労働法、四 労使法治主義と労組法改正通過 」です。

共に民主党・大統領選挙公約(労働分野)

韓国の労働組合・市民団体は、厳しい弾圧を乗り越えて労働人権、労働基本権を大統領選挙の中心的な争点の一つにまで高めてきました。今回の選挙の結果、労働人権、労働基本権の尊重を公約に掲げる李在明政権が誕生しました。大統領になってからの韓国政府の政策はまだ確定していませんが、現時点でその政策の骨格を示す李在明大統領=共に民主党の労働分野での公約を日本語訳(仮訳)してみました。
 ただ、広範囲の公約で十分に訳し切れていない部分がありますので、今後、仮訳を修正・更新し、訳注も追加するつもりです。
 この選挙公約は「これからは本当の大韓民国」という表題で375頁もの大部なもので、「回復、成長、幸福による国民統合」という副題がついています。(右は、表紙画像)
 その内容は、Ⅰ.「本物の大韓民国」建設ビジョン、II.「本物の大韓民国」経済成長戦略、III.3大ビジョン別政策公約、IV.対象別公約の4章に分かれています。
 労働分野については、III.3大ビジョン別政策公約の三番目のビジョンである「3.幸福」の中で、「4.労働尊重および権利保障」があり、さらに14の項目に分かれて示されています。
 以下、この14項目について、急いで日本語に仮訳してみました。
 それぞれの項目の最後のv印をクリックして各項目の詳細を読んでください。
 

01 働くすべての人々の「仕事場の権利」を保障し、働いた分だけ補償を受ける公正な労働環境を作ります

□ 働くすべての人々の「仕事場の権利」保障強化

  • 自営業者、特殊雇用およびプラットフォーム労働者など契約の名称や形式に関係なく働くすべての人々(就業者)の「仕事場の権利」保障のための基本法制定
  • 「仕事場の権利保障のための基本法」は就業者の誰もが仕事をする過程でi次稼ぎやハラスメントを受けない権利▲私生活と個人情報を保護される権利▲安全で健康な環境で労働する権利▲遂行した労働に対する公正な補償を受ける権利▲妊娠·出産など仕事と家庭の両立のための保護及び支援を受ける権利▲雇用保険・産災保険·健康保険·国民年金など社会保障を受ける権利▲生涯教育·職業能力開発支援を受ける権利などを規定し、それぞれの個別立法による権利保障に対する国家の義務付与

□ 「勤労基準法」等、労働関係法の保護対象の明確化及び適用範囲の拡大

  • 企業などが勤労者に対する雇用(使用者)責任回避のために偽の3.3契約〔가짜 3.3계약〕など模様だけ〔무늬만〕フリーランサーにする偽装請負および誤分類防止のため、「勤労者推定」制度で労働関係法上の保護対象の明確化、企業などは「勤労者」ではないことを立証できる「反証権制度化」
  • 「勤労基準法」常時5人未満事業(場)段階的適用拡大および事業主支援
  • 公務員・教員の労働基本権保障および業務時間外職務と関係のない政治活動の保障推進

□ 非正規職労働者など雇用労働行政および労働関係法による保護実質化

  • 公共部門の常時·持続業務、生命安全業務など正規職採用および雇用原則確立後、民間拡散推進
  • 解雇や非正規雇用が多すぎる事業場の事業主分の雇用保険料を弾力的に調整する「雇用保険経験料率制」を導入し、雇用安定および正規職転換を誘導
  • 使用者が自発的に非正規職特殊雇用など労働者を正規職転換時に大幅支援
  • 非正規職特殊雇用プラットフォーム-移住労働者など支援機構の拡大および権益保護の活性化
  • 低賃金·小規模事業(場)社会保険料支援(ドゥルヌリ)事業産災保険料·健康保険料追加支援推進
  • 退職年金制の義務化及び1年未満の勤続労働者(継続勤労期間3ヶ月以上)の退職給与保障
  • 超短時間労働者の労働関係法上の権利を労働時間に比例して保障

* 〔〔訳注〕 「産災」は産業災害の略語で日本語の労働災害に相当する。「産災保険」は、日本の「労災保険」とほぼ同じ制度。また、産災認定、産災補償など、日本の労災認定、労災補償に当たると理解できる。同様に、「産業安全」は、日本語の「労働安全」と同義。

02 産業·業種·地域単位の団体交渉·協約モデルを活性化していきます

□ 超企業単位の交渉活性化及び団体協約の効力拡大推進

  • 国家・自治体、公共機関など公共部門が模範的使用者として労働関係法を遵守し、産業業種団体交渉協約モデルを構築することで低賃金·未組織労働者保護
  • 国等による予算支援や公共調達民間企業の普及推進
  • 団体協約自動効力拡張または行政命令による効力拡張など制度改善を推進し、労働市場内の両極化不平等緩和
  • 未組織労働者の社会的対話および労使関係構築支援

□ 交渉権保障・中間搾取防止のために「本当の社長」が責任を負う雇用条件および環境造成

  • 「労働組合法」2・3条の改正により、下請労働者等が労働条件について実質的かつ具体的に支配·決定できる元請業者との交渉を制度化
  • 用役など下請労働関係で人件費区分支給および確認制導入
  • 派遣勤労契約に派遣手数料明示および上限設定導入
  • 元請による同一業務で用役業者が変更される時、間接雇用労働者の雇用継承を義務化し、公正な労働環境構築
  • 企業規模(大-中小企業)雇用形態(正規職-非正規職)、性別(男女賃金)の問題解消方案を用意
  • 超企業(業種、産業地域)交渉支援のための賃金情報提供および格差解消方案用意
  • 同一価値労働同一賃金(処遇)法制化および「仕事場」適用のための法・制度改善
  • 職務職位勤続など同一労働同一賃金基準指標準備のための賃金分布制導入
  • 公共部門に従事する公務職労働者の権益保護などのための公務職委員会法制化
03 職場内の民主主義、労使自律の強化で必ず実現します

□ 公共部門「労働理事制」全面導入推進

□ 事業(場)内の労使自律協議を主導する「勤労者(労働者)代表委員会」常設制度化

  • 勤労者(労働者)の過半数を代表する「勤労者(労働者)代表)」の選出・任期・役割・法的保護など制度的基盤を用意
  • 契約職、派遣職、社内下請労働者の場合、人員に比例して「勤労者(労働者)代表」選出
  • 勤労者(労働者)代表委員会で労・使自律的職場内の労働条件、苦情処理など議論

□ 職場内ハラスメント根絶のためのILO190号(仕事の世界における暴力とハラスメント根絶に関する条約)の批准推進

04 勤労監督を強化し、未払い賃金ゼロ時代を開きます

□ 勤労監督人材の増員及び地方公務員特別司法警察権付与

  • 中央政府と地方自治体が勤労監督活動を並行する効果的な協力モデルの構築

□ 国家代位権強化で労働者に未払い賃金「ゼロ時代」推進

  • 賃金債権消滅時効(3年)内に未払い賃金を国家が代支給金*で全額支給
  • (現行)最終3ヶ月分の賃金および最終3年間の退職給与支給 [倒産時]最大2,100万ウォン [簡易最大] 退職者 1,000万ウォン、在職者700万ウォン→(改善)最終3年間未払い賃金·退職金
  • 未払い賃金の防止及び代支給金回収のために▲代支給金回収専任担当機構の設立▲未払い賃金に対する事業主処罰の量刑基準の強化▲未払い賃金に対する元請・下請連帯責任の付与▲代支給金回収国税滞納処分手続きによる処理▲すべての事業(場)退職年金義務加入で未払い賃金発生事前防止

□ 各種雇用・労働政策を樹立する政府委員会に労・使の実質的参加保障

  • 雇用政策審議会、雇用保険委員会、雇用保険審査委員会、炭素中立委員会など分野別対象別の政府部署別雇用政策審議時、労使の実質的参加保障

□ 労働裁判所の設立と労働委員会の実効性強化

  • 労働紛争を専門的に担当する労働裁判所の設立推進(組織改編)
  • 特殊雇用・プラットフォーム労働など雇用されて働くすべての労働者の、働く過程での不合理な差別・私生活と個人情報を保護侵害・公正な労務提供契約未締結・パワハラやセクハラなどに対して労働委員会に紛争調停機能付与制度化

□ 適正労働基準を保障するための労働者(労働者)支援行政の強化

  • 良い就労の拡散のための「幸せな職場(就労先)認証制」導入
  • 各産業の現況および地域などの(生活)賃金、労働条件と雇用創出などと関連した指数を圧縮し「就労評価指標」開発およびこれを通じた「幸せな仕事場」認証制導入
  • 国及び地方自治体の発注委託事業者の入札及び選定過程において「雇用評価指標」の適用及び「幸せな職場(雇用)認証」企業優遇
  • 中小零細企業の労働者の場合、公認労務士による陳述助力権保障
05 全国民産災保険制と産災保険国家責任制を実現します

□ 働くすべての人のための「全国民産保険制度」段階的推進

  • 「業務上の災害リスクが高い自営業者·」まで産災保険制度を導入
  • 自営業者の細部特性(勤労者の雇用有無、業種など)によって適用対象別の保険料負担、
  • 農業、林業(伐木業を除く)、漁業及び狩猟業のうち非法人常時勤労者5人未満事業(場)勤労者「産災補償保険法」適用
  • 任意加入の適用対象者の当然加入への転換

□ 「産災保険給与の先保障」で「産災国家責任制」を実現

  • 業務上疾病類型別災害調査期間の具体的な法定化
  • 災害調査期間を超えたり、原因不明の希少疾病の場合など産災保険給付の優先支給(傷病手当制度と連携)
  • 業務と災害の間の相当因果関係を規範的観点から判断明文化
  • 特定業務上疾病に該当するかどうか、勤労福祉公団の立証責任に転換(業務上疾病推定適用対象疾病拡大)*
  • 災害勤労者が業務遂行過程でリスト上の疾病にある有害・危険要因を扱ったり、それに露出された経歴があるという事実を証明すれば業務上の疾病に該当すると推定、主張された疾病と業務の間に因果関係がないという事実は勤労福祉公団が立証(国家人権委員会(2012.5)勧告)

□ 迅速かつ公正な産災補償システムの構築

  • 業務上の疾病など産災立証に困難を来たす脆弱労働者支援のための産災判定機構に国選代理人(老人ホーム制度導入
  • 産災判定および審査、再審査庭球の決定事項、決定書と裁決書、判定委会議録など産災補償関連情報公示拡大
  • 産災判定機構の公正性と独立性の強化

06 「仕事中に怪我をしたり死なないように」働くすべての人々のための産業安全保健体系を構築します

□ 働くすべての人のための産業安全保健システムの構築

  • 現行の「産業安全保健法」をすべての働く人々を保護する法体系に改版し、政府内の産業安全保健
    システムを統合運営*
  • 産業安全分野の立法提案及び予算、行政組織の改革など専門性と独立性を付与
  • すべての産業業種で体系的な安全管理基準と手続きを設け、様々な産業で発生する災害を予防できる体系を構築
  • 産業災害の原因調査範囲を拡大し、重大災害事故だけでなく、新しいタイプの産業災害に対応する予防システムを構築
  • 産業安全管理基準及び標準を研究し、管理、R&Dなど専門機関の確立により産業全般の安全管理基準の一元化及び産業現場に実質的な関連技術の普及等を推進

□ 後進的産災予防システムの全面改編

  • 下請労働者保護のための元·下請統合安全保健管理体系構築
  • 企業「安全保健公示制」段階的導入*
  • 毎年①事業場安全保健管理体制、②安全保健投資規模、③前年度安全保健活動実績および次年度活動計画④事故死亡など産災発生現況⑤災害発生時の再発防止対策樹立および履行計画などを公開
  • 事業場危険性評価未実施事業場に対して罰則導入で自律規律予防体系定着
  • 人工知能(Al)とビッグデータを活用した事故現場モデル開発および安全管理デジマルプラットフォーム構築し、すべての安全管理活動統合管理およびリアルタイム情報共有
  • 安全保健教育をすべての事業場に拡大し、夜間勤労者の過労死防止および感情労働など精神健康障害予防方案を用意
  • 新再生·水素エネルギーなど関連する新たな安全保健基準を設ける

□ 産業安全保健体系労働者および労働組合の実質的参加拡大

  • 作業現場内の有害危険発生が濃厚な時、労働者が使用者に作業中止および是正措置を要求できる権利付与
  • 一定規模以上の名誉産業安全監督官委嘱義務化及び特別監督参加義務化
  • 産業安全分野等での元請·下請労使共同参加保障

07 女性の性・再生産権の保障と健康増進のために努力します

□ 女性のライフサイクル別健康権の強化と医療アクセスの向上

  • 「産婦人科」の名称を「女性医学科」に変更
  • 女性青少年及び未婚女性の女性の健康に関する診療障壁と心理的負担の解消

□ 性·再生産健康増進のための公的医療体系構築

  • 地域保健所を活用した避妊と妊娠中止に関する相談サービスの支援

□ ヒトパピローマウイルス(HPV)国家予防接種支援事業拡大

  • 現在、女性青少年に無料で支援される接種対象を男性青少年にまで拡大
  • 予防効果を高めることができるアンジルワクチンの切り替えを検討

□ 産後ケア支援政策の公共性強化

  • 公共産後調理院全国広域団友1(17市道別)拡大設置
  • 公共産後調理院の拡大設置により、利用需要の向上及びコスト削減
  • 公共産後調理院の運営強化のための国費支援の根拠づくり

08 女性差別のない職場を作ります

□ 「雇用平等賃金公示制」導入

  • 性別賃金格差改善のための5ヵ年計画樹立
  • 実態調査、賃金格差解消改善計画、改善委員会設置
  • 公共機関、職種別、職級別、男女勤労者の賃金現況を公開
  • 公示対象義務化民間事業場の段階的拡大推進

□ 公共機関の男女平等組織文化を向上させるための性別平等指標を積極的に反映

  • 性別賃金格差、性別勤続年数、昇進および研修、育児休職後勤続差別など差別指標

□ 経歴を持つ女性採用企業に対して税制支援など強化

  • 「経歴保有女性」、「経歴継承女性」など権益向上用語に変更
  • 女性の経済活動促進寄与機関団体等に褒賞規定を設ける
  • 経歴保有女性の就職支援拡大

09 週4.5日制の推進で労働時間を減らしていきます

□ 週4.5日制の推進により、労働時間短縮支援および過労死予防

  • 汎政府次元OECD平均以下の労働時間実現のための「実労働時間短縮ロードマップ」提示および週4.5日制モデル事業実施支援など実労働時間短縮推進
  • 国及び地方自治体に過労死等を予防するための対策樹立及び実労働時間短縮支援のための法制度改善
  • 「勤労基準法」の勤労時間適用除外および特例業種関連規定改善

包括賃金制の禁止など「勤労基準法」に明文化

  • 長時間労働と「無料労働」を根絶するために包括賃金制禁止規定
  • 使用者の実労働時間測定·記録義務化および企業支援
  • 既存の賃金など勤労条件が低下しないよう補完方案を用意

年次休暇日数と消化率を先進国水準に拡大し、年次休暇の活性化

  • 年次有給休暇取得要件を6ヶ月以上継続勤労に緩和
  • 年次休暇貯蓄制度(例:3年以内繰越適地)の導入及び使用者年次休暇付与義務など年次休暇使用促進制度の改善
  • 年次休暇の請求または使用を理由とする不利な処遇の禁止

「夕方のある暮らし」のための「つがらない権利」を保障

  • 勤務時間外に電子メール、電話、携帯メールなどの連絡に応答することを拒否できる権利(つながらない権利)を保護し、勤労者の私生活および休息権を保障
  • 業務特性を積極的に勘案して制度化推進

10 権利保障を強化し、障害者社会への参加を説きます

□ 障害者権利保障の法的·制度的基盤強化

  • 体系的障害者の権利保障基盤づくりのための「障害者権利保障法」制定
  • 障害者福祉拡充中長期ロードマップ「2035国家障害戦略」樹立
  • ワンストップ統合個人に合わせた公的障害サービス支援システムの構築

□ 移動権保障の拡大

  • 障害者など交通弱者のための交通手段の拡大及び段階的発展計画の準備
  • 移動便宜サービス支援の根拠づくり及びサービス品質向上
  • 交通弱者の歩行環境改善

□ 教育権の保障拡大

  • 特殊学校及び特殊学級の拡大、特殊教師の適正定員の確保
  • 障害大学生奨学金の恩恵拡大及び大学別障害学生支援センターの設置拡大
  • 障害者生涯教育法制定推進及び障害者生涯教育機関国費支援拡大

□ 所得·雇用保障の拡大

  • 障害者年金支給対象の拡大(従来の3級障害者まで受給範囲の拡大)を推進
  • 障害者の義務雇用拡大および雇用活性化制度の改善、勤労支援人の支援拡大
  • 重症障害者に合わせた公共雇用拡大

□ 健康権の保障拡大

  • 障害者主治医制度の拡大
  • 障害者医療費支援の拡大、補助機器支援の拡大及び伝達体系の改善

□ 地域社会自立支援の拡大

  • 障害者活動支援制度の改善及び支援住宅の供給拡大
  • 障害者自立生活センターの機能強化及び支援拡大
  • 障害者虐待予防および障害者権益擁護支援体系強化

□ 発達障害者の精神障害者支援拡大

  • 発達障害者24時間ケア支援システム構築推進
  • 発達障害者の自立安定性強化及び家族ケア負担緩和のための住居·心羅休息·教育支援拡大
  • 障害児童の早期介入及びリハビリ支援の拡大
  • 精神障害者の精神疾患者の地域社会自立のための施設サービスの拡充及び制度改善

□ 女性障害者の多重差別構造改善のための法的·制度的基盤の強化

□ 境界線知能者支援システムの構築

  • 境界線知能である早期発見および学業·労働日常生活などのための地域社会支援体系構築
11  「腕の長さの原則」で文化芸術家の創作権を保障します

□ 文化芸術の活動を支援するが、干渉しない「腕の長さの原則」を遵守

  • 政府の文化芸術家創作権侵害禁止
  • 文化芸術界のブラックリスト防止対策作り

□ 芸術家の創作権保障のための権利保障強化

  • 国・自治体等との契約上の権利強化(芸術家の意思に反する契約不履行禁止)
  • 芸術家の権利侵害行為の拡大及び罰則の新設、国家などの不公正行為の禁止
  • 芸術家保護官の開放型職位転換推進

□ クリエイター保護のための契約関係の合理的改善

□ 青年芸術家及び芸術大学(院)の学生支援

  • 芸術大学(院)の公共連携プロジェクト及び産業化支援の拡大
  • 創業支援から成長段階別支援(予備創業→創業→成長→跳躍)
  • 定年芸術家の公共文化芸術機関インターンシップ拡大

* 〔訳注〕腕の長さの原則(Arm’s length principle アームズ・レングスの原則)。腕を広げて長さを測ってみる。 腕の長さほどの距離を置くこと、芸術と政治の距離、支援はするが干渉はしないという文化政策の基本的な土台である。腕の長さの原則は、1945年にイギリスで初めて考案された概念です。芸術評議会(Arts Council)を設立し、芸術と政治の間に距離を置くために作られた。日本では「独立企業間原則」として税制関連で使われる

12 単一賃金体系を導入し、100万人の社会福祉人材の処遇を根本的に改善します

□ 社会福祉人材の賃金現実化のための単一賃金体系を段階的に推進

  • (1段階)社会福祉人材人件費基準(社会福祉専門公務員水準)100%達成推進
  • (2段階)すべてのタイプの社会福祉施設に対して単一賃金体系を導入。同一社会福祉施設間の地域別賃金格差も解消

□ 社会福祉居住施設の人材3交代制及び利用施設の人材休憩時間の保障など、勤務環境の改善

  • 社会福祉施設人材の追加配置及び支援人材の拡大
  • 社会福祉人材の非正規雇用を最小化

13 公務員の処遇改善及び公職文化の改善を通じて、働きがいのある公職環境を実現します

□ 7~9級低年次公務員の報酬を持続的に引き上げ、激務に合った給与支給

  • 27年までに9級初任給の実質的な引き上げを推進
    □ 警察·消防災害担当公務員危険勤務手当引き上げ
    □ 「幹部を迎える日」、不合理な業務指示など誤った公職慣行打破
    □ 公務員の専門性を活かせる「専門職位制」等の導入推進

14 個人情報保護を強化します

□ 個人情報保護委員会の役割の再確立及び地位強化

  • 産業振興と個人情報保護機能の利害衝突の解消及び個人情報保護の役割強化

□ 人工知能時代に合わせた個人情報保護評価·管理システムの構築

  • 公共機関と民間企業の個人情報保護措置の履行のためのガイドラインづくり
  • 個人情報を合成·変造した生成物等により発生した侵害に対して積極的に対応できるよう削除要求権新設

労働政策を本気で進める? 李在明政権

 この労働分野の公約が実現すれば、韓国の労働者の状況は大きく前進することになります。
 例えば、この6月にILO総会では、法の谷間でにある「プラットフォーム労働者」の権利と保護をめぐって条約や勧告などの文書を採択することが提案されていました。これについて韓国の尹錫悦政権は、条約化などに反対の回答をILOに送っていました。ところが、ILO総会中に出発した李在明・新政権は、前政権の態度を180度変えて、条約化に賛成の意見を伝えたとのことです。これは、日本政府がILOのアンケートにきわめて消極的な回答をし、条約化に反対して拘束力のない勧告で済ませるという回答をしていたのと対照的です。

とくに、私個人は、集団的な労働関係での改善が進むかが、公約実現の重要なポイントだと思っていました。そして、意外な人事が報道されて改めて新政権の本気度を感じることになりました。李在明大統領は、新しい内閣の人事で、雇用労働部長官候補に、金栄訓(キム・ヨンフン)さんを指名したからです。金栄訓さんは、機関士として鉄道労組の委員長を務めた労働組合活動家出身です。韓国メディアは、「びっくり抜擢」と報道しています(毎日労働News 2025年6月23日)。報道によると、金栄訓さんは、2000年、32歳で鉄道労組釜山機関車支部長となり、2004年に鉄道労組委員長に当選、鉄道労組委員長時期の2006年3月ストライキで拘束·解雇された経験があります。2007年には全国運輸産業労組の初代委員長になったのに続き、2010年1月、40歳代初めの年齢で民主労総委員長に当選しました。そして、正義党などで政治活動をした時期を経て、今回の選挙では、李在明候補の選挙陣営に参加しました。文在寅政権では、韓国労総系の雇用労働部長官が生まれましたが、民主労総系の長官は初めてとなります。今後、国会での人事聴聞会があるので、6月26日現在、長官人事が確定したわけではありませんが、李在明政権の労働分野での公約実現の本気度を感じるニュースです。
 今後、韓国の労働法、労働政策、労働組合運動は、新たな次元に前進することが大いに期待されますので、これからも引き続き注目し、紹介していきたいと思います。

[LIVE] ‘2025年6月24日 KBSnews

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