〔情報〕「シフト制労働」をめぐる法・政策 日本と世界の動向

コロナ禍では多くの被害が出ました。その一つが「シフト制労働」で働く非正規雇用労働者が、労基法が定める「休業手当」や、新たに創設された「休業支援金」の支給を受けられないという問題でした。労働相談を受けた首都圏青年ユニオンなど関係者の努力で、この「シフト制労働」をめぐる問題が国会でも問題となり、政府・厚生労働省も一定の対応を行いました。
私は、9月2日に「シフト制労働」をめぐるWeb集会(非正規労働者の権利実現全国会議・首都圏青年ユニオン共催)で「『シフ ト制労働』の問題点と法・政策的課題」という報告を担当しました。その機会に、世界の動向、とくに、企業からの呼出に応じて働く「オンコール労働」や「ゼロ時間契約」と呼ばれる働き方が広がっていることを知りました。既に、一部の国やEU(欧州連合)が一定の規制を定めていることを調べて報告を行いました。そして、集会での報告内容を基にした論考を雑誌(月刊全労連12月号)に掲載しました。(※論考の全文は2ヵ月後に全労連HPに公開される予定です。)
 以下、問題提起をした首都圏青年ユニオンの『シフト制労働黒書』、私の集会関連の報告・資料、外国の関連情報を集めました。また、これ以外の雑誌論文などの関連情報を追加していく積もりです。(2021.11.20 swakita)

首都圏青年ユニオン 「シフト制労働黒書」 関連情報

首都圏青年ユニオン・首都圏青年ユニオン顧問弁護団
シフト制労働黒書(2021年5月)

シフト制労働黒書(青年ユニオンホームページ・リンク) 
シフト制労働者黒書 サマリー ダウンロード:PDF • 469KB
シフト制労働黒書本文 ダウンロード:PDF • 632KB

「シフ ト制労働」の問題点と法・政策的課題

  • 特集 コロナ禍で明らかになった労働法制の課題
  • 「シフ ト制労働」の問題点と法・政策的課題 脇田 滋
    はじめに
    Ⅰ コロナ禍で浮かび上がった「シフト制労働者」の無権利
    Ⅱ 時代後れの雇用維持制度(休業手当・雇用調整助成金)
     ①休業手当制度 ②休業手当と密接につながる「雇用調整助成金」制度
     ③「休業支援金制度」新設と問題点
     ④大企業非正規雇用労働者への休業支援金制度の適用拡大
    Ⅲ 「シフト制」労働と規制の方向
     ①介護保険と無権利な「シフト制労津」導入 
     ②オンコール労働とのたたかいと各国での法規制
    Ⅳ 結論 ①休業手当制度改正と「操業短縮手当」導入(立法論)
     ②シフト制労働の規制 
  • コロナ禍で浮き彫りになったシフト制労働問題 原田 仁希

ニューヨーク市 ファーストフード労働者の権利              Click
脇田 滋「シフ ト制労働」の問題点と法・政策的課題 9頁

 最近では、ニューヨーク市が条例でファスートフード店のシフト制労働者の権利を幅広く認めて、全米から注目されている(表2)。まず、2017年の条例で、①長期の定期的勤務 日程の明示、②シフト変更は2週 間前に通知、③閉開店連続シフトヘの特別手当などが定められた。さらに、2021年7月からは、④正当な理由のない解雇・シフト削減の禁止、⑤理由のない人員削減禁止などが定められた。とくに、④と⑤は、解雇に理由が要らない「随意雇用 (at will employment)」が原則であるアメリカ全土で大きな波紋を呼んでいる一方、国際サービス従業員労働組合(SEIU)地域支部(32BJ)の長年のたたかいを反映したもので、多くの労働者を励ましている。(脇田 滋「シフ ト制労働」の問題点と法・政策的課題 7-8頁より)

脇田滋「コロナ禍と働き方 雇用危機をどう乗り越えるか」(労働法律旬報1982号)「シフト制」関連部分     Click

2 「シフト制労働」の弊害排除

 日本の非正規雇用は、①雇用不安定、②差別待遇、③無権利、④孤立の四つの弊害が特徴であるが、さらにコロナ禍は、休業手当、休業支援金をめぐる問題を契機に「シフト制」労働の深刻な脆弱性を浮き彫りにした。「シフト制」労働は、世界的には「オンコール労働」と重なる特徴をもっていることを強調しなければならな。ILOは、オンコール労働について「労働時間が極めて可変的で予測不可能な雇用形態は、特に先進工業国で、企業のニーズの変化に人員配置を適応させる手段として重要性を増してきた。このような雇用形態は一般的に『オンコール労働』と呼ばれ、直前になってからの勤務日程の連絡や、労働時間の大幅な増減、労働の時期に対する希望がほとんど、またはまったく出せないことを特徴とする」と説明している。この「オンコール労働」の一つは、90年代後半から広がった英国の「ゼロ時間労働契約」である。これは、直前の勤務日程連絡や、労働時間の大幅な増減、労働の時期に対する希望を労働者がほとんど、またはまったく出せないことを特徴としており、多くが、最低限の労働時間数も賃金も保証されていない。直前にシフトが取り消されても、次の仕事が来なくなる不安から労働者は争うのが難しい。※

※ ILO(2016)『世界の非標準的雇用:課題の理解と展望の形成』24頁以下参照。

 ILOは、「オンコール労働」の弊害から労働者を保護するために各国でとられているいくつかの措置を紹介している。フランスでは「最低労働時間の保障」として、パートタイム雇用規制で、2016年現在、拡大型産業別団体協約を通じて週最低労働時間を定められるとし、協約がない場合、最低労働時間は週24時間とされている。それ以外の国でも、シフト当たりの最低時間保障(ドイツ)、事前の最低通告期間(ニュージーランド)など、「オンコール労働」について労働者保護措置が導入されている。※

※ ILO(2016)・前掲書198頁以下、フランスについては、永澤亜希子「フランス労働法の特色」Jurist2014年7月号参照。

 さらに、EU(欧州連合)が、2019年6月の「透明で予見可能な労働条件指令」 で、「オンコール労働」規制を目的とした規制を導入した。同指令は、使用者による、最低保証賃金支払い時間数、作業割当の事前告知などの通知義務(第4条)、最低限の労働予測可能性(第10条)、オンデマンド契約の制限(第11条)などを定めている。濱口桂一郎氏は、「シフト制アルバイト」について、「ゼロ時間契約」との共通性を指摘し、EU指令が定めた規制内容との関連で問題点を的確に指摘されている。※

※ 濱口桂一郎「シフト制アルバイトはゼロ時間契約か?」『労基旬報』2021年1月25日号濱口桂一郎「EUの透明で予見可能な労働条件指令案」「労働法の立法学」49回『季刊労働法』260号(2018年春号)209頁

 コロナ禍で顕在化した「シフト制」労働については、弊害が大きい日本の非正規雇用をより一層脆弱化するものとして、EU指令と同等かそれ以上に厳格な法規制を導入する必要があると考える。※

※ 国会でも、シフト制に関連してEU指令導入が提起され、田村厚労大臣は「検討する」と回答した(2021年3月19日参院予算委員会・山下芳生議員の質問)。

シフト制労働・オンコール労働をめぐる世界の動向

ILO『世界の非標準的雇用:課題の理解と展望の形成』(2016年)

アイルランドのゼロ時間契約規制法                Click

2019年3月3日_SIPTU HealthNews 低賃金との闘いに新たな武器

アイルランド 「雇用(雑則)法」(2019年)【出所】

http://www.irishstatutebook.ie/eli/2018/act/38/section/15/enacted/en/html#sec15

1997年の法律の第18条の修正

【15】. 1997 年法の第18条を以下の条に置き換えることにより、同法を改正する。

特定の状況下におけるゼロ時間労働の禁止および特定の状況下における最低支払報酬額の設定

第18条 (1) 本条は、雇用契約により、従業員が1週間に1度、使用者のために働けるようにすることが求められている従業員に適用される。
 (a) 一定の時間数(以下、「契約時間数」という)。
 (b) 使用者が要求したとき、および要求されたとき。
 (c)一定の時間とそれ以外の時間の両方を、使用者が要求した時に行うこと。
 そして、この要件は、もしそうであれば、使用者が従業員に、その週以前に、偶然の性質の仕事をするように従事させていたという事実(それらの機会の数や、従業員の従事に関わるその他の状況が、従業員側に、その週に使用者のために仕事をすることを要求されるだろうという合理的な期待を生じさせるようなものであるか否かを問わない)のみによって発生するとみなされるものではない。
 (2) (1)項の(a)及び(c)に記載された一定の労働時間に関する契約においては、当該労働時間数は、ゼロよりも大きくなければならない。
  (2)項は、(1)項にかかわらず、以下の場合には適用されない。
  (a) 緊急時に行われる仕事。
  (b) 当該使用者の日常的な欠勤を補うための短期的な救援業務。
 (4) 使用者が、本項が適用される従業員に対して、(1)項で言及された週に使用者のために働くことを要求しない場合、以下の通りとする。
  (a) 同項(a)に該当する場合は、契約時間の少なくとも25%。
  (b) 従業員が自分でできるようにしなければならない種類の仕事が、その週に使用者のために行われた場合、同項の(b)または(c)に該当する場合は、その週に行われた当該仕事の時間の少なくとも25%。
  その場合、本項に従い、従業員は以下の権利を有する。
  (i) 従業員がその週に使用者のために全く働くことを要求されなかった場合には、その週に使用者のために働いていた場合に受けることができたであろう賃金のうち、以下のいずれか少ない方を使用者から支払われる。
   (I) 場合によっては、(a)または(b)に記載された時間数の割合、または
   (II) 15時間
  (ii) 従業員が、その週に、場合により(a)または(b)で言及された時間の割合よりも少ない時間で使用者のために働くことを要求された場合(かつ、その時間の割合が15時間未満である場合)には、その週に、場合により(a)または(b)で言及された時間の割合で使用者のために働いたものとして、その週の賃金が計算される。
  最低支払賃金額は、このような事態が発生するたびに、2000年および2015年の全国最低賃金法の意味における全国最低時給の3倍、または当分の間、施行されている雇用規制命令によって定められた賃金の最低時給の3倍として計算されるものとする。
 (5) (4)項は、以下の場合には適用されない。
  (a) 当該従業員が当該週に、場合により同項(a)または(b)で言及された時間数の割合で働くことを要求されなかったという事実が
  (i)その週に解雇されたか、または短時間勤務となった場合。
  (ii)例外的な状況または緊急事態(事故または事故の差し迫った危険を含む)によるもので、その結果があらゆる適切な注意を払ったにもかかわらず回避できなかった場合、またはその他、使用者の管理を超えた、異常かつ予見できない状況の発生による場合。
 または
  (b) 当該従業員が、病気またはその他の理由により、その週に使用者のために上記の割合の時間働くことができなかった場合。
 (6) (4)項(b)で言及されている種類の仕事が当該週に行われた時間についての言及は、当該使用者の他の従業員が当該週に行った当該仕事の時間数、または、当該使用者が2人以上の従業員に当該週に自分のために当該仕事を行うように要求し、各従業員が当該週に行った当該仕事の時間数が同一でない場合には、それらの従業員の1人が当該週に行った当該仕事の時間数のうち最大のものを指すと解釈されるものとする。
 (7) 本項において、従業員が使用者のために働くことができるようにすることが求められているという言及は、従業員が待機すること、すなわち、緊急事態やその他の出来事に対応できるようにすることが求められているという言及を含むと解釈してはならない。
 労働時間帯
 16. 第18条の後に以下の節を挿入することにより、1997年の法律を改正する。
 「第18条A. (1) 従業員の雇用契約書または雇用条件書が、基準期間における従業員の1週間当たりの労働時間数を反映していない場合、従業員は、本項の表で指定された1週間当たりの労働時間の帯に配置される権利を有するものとする。
  (2) (1)項に従い、従業員が週単位の労働時間帯に配置される権利があると考える場合、その旨を使用者に伝え、書面で要求しなければならない。
  (使用者は、従業員が(2)項に基づいて請求した日から4週間以内の日に、週単位の労働時間帯に配置しなければならない。)
  (4) 従業員が配置される権利を有する週単位の労働時間帯は、基準期間における当該従業員の1週間あたりの平均労働時間に基づいて、使用者によって決定される。
  (5) 使用者は、以下の場合、従業員を要求された労働時間帯に置くことを拒否することができる。
   (a) 基準期間中の労働時間に関する主張を裏付ける証拠がない場合。
   (b) 基準期間中または基準期間後に、使用者が行っている事業、専門職、または職業に著しい不利な変化があった場合。
   (c) 第5条が適用される状況にある場合、または
   (d) 基準期間中に従業員が働いた時間の平均が、もはや存在しない一時的な状況の影響を受けていた場合。
  (6) 本項は、団体交渉を経て合意により締結された時間帯による時間調整には適用されない。
  (7) 週間労働時間の帯に配属された従業員は、配属されてから12ヶ月以上の期間、平均してその帯内に収まるような時間を勤務しなければならない。
  (8) 従業員が、使用者が(2)項に基づいて要求されたにもかかわらず、(3)項に基づいて週単位の労働時間帯に配置することを怠った、または週単位の労働時間帯に配置される要求を不当に拒否したと考える場合、従業員は2015年職場関係法第4部に従って苦情を申し立てることができる。
  (9) 本項に従わないという苦情に関する2015年職場関係法第41条に基づく裁定担当者の決定は、以下のうち1つ以上を行うものとする。
  (a) 苦情が根拠のあるものであったか、場合によっては根拠のないものであったことを宣言する。
  (b) 苦情が十分な根拠を持っていたと判断された場合、使用者に本項を遵守し、従業員を適切な時間帯に配置することを要求する。
  (10) 第27条(3)(c)にかかわらず、(9)項(b)に従った決定は、使用者が本項を遵守しなかったことについて、使用者に従業員への補償金の支払いを命じない。
  (11) (8)項に基づく手続のいずれかの当事者は、2015年職場関係法第44条に従い、裁定官の決定を労働裁判所に上訴することができる。
  (12) 本項に言及された裁定官の決定に対する控訴について、2015年職場関係法第44条に基づく労働裁判所の決定は、裁定官の決定を肯定、変更または破棄するものとする。
  (13) 本節のいかなる規定も、従業員が働くことを期待されていない週に労働時間を提供することを使用者に要求したり、使用者の通常の職業、専門職または商売が行われていない週に労働時間を提供することを使用者に要求したりするものではない。
  (14)本項において「基準期間」とは、使用者との雇用開始後、従業員が(2)項に基づく要求を行う直前の12ヶ月間を意味し、18A条の開始直前に発生した当該使用者との継続的な雇用期間は、本項の目的のために起算できるものとする。

表 週間労働時間の区分

区分からまで
A3時間6時間
B6時間11時間
C11時間16時間
D16時間21時間
E21時間26時間
F26時間31時間
G31時間36時間
H36時間以上 

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