映画は1980年代の軍事政権下に実際に起こった女性連続殺人事件を題材にしているが、物語はあくまでもフィクションである。監督はポン・ジュノ。日本公開は2004年。
冒頭、丸坊主の、小学校低学年ぐらいの悪ガキが麦畑の中からヌッと顔を出す。画面いっぱいにその子の胸のあたりまで伸びた黄色い麦畑の海原が広がる。麦畑と真っ青な空とのコントラストに鳥肌が立った。
暴力的な刑事(ソン・ガンホ)が耕運機の荷台に後ろ向きに乗って畦道をゆっくり走ると数人の子どもが囃し立て、追いかける。それを憮然とした表情でみる刑事。耕運機が石蓋を載せてある側溝の前で止まる。刑事は溝に入って薄暗い石蓋の中を覗き込む。向こうに若い女性の惨殺死体があった。
ソン・ガンホはソウルから派遣された刑事(キム・サンギョン)と事件解決にあたるが、この二人は絶えず対立する。軍事政権下の警察は戦前の日本の特高警察で同じである。逮捕した容疑者を殴る蹴るの徹底した暴行を加え続けて自白を強要しようとするが、いずれも証拠不十分で釈放されてしまう。そうした中で二人の刑事をあざ笑うかのように、雨の日に若い女性が次々と殺されていく。犯人に翻弄される二人の刑事の執念が次第に狂気を帯び、より暴力的になってくる。
結局、事件は未解決のまま終わる。その後、ソン・ガンホはセールスマンになるが、久しぶりに仕事で事件の村を訪れる。彼は殺人現場の近くに車を止め、女性の遺体があった側溝を除くが、そこには何もなかったが、通りがかった学校帰りの少女がとんでもないことを話し出す。このラストに僕は唸った。
この映画の面白さは恐ろしくテンポがいいことと、物語の内容がかなり陰惨にもかかわらずユーモアがある。それが秀逸だ。犯人は陰毛が生えていないという噂が立ち、ソン・ガンホは公衆浴場の湯船で見張り続けるが湯あたりしてしまう、その可笑しさに笑ってしまう。そこがこの作品の緩急自在なところであり、見る人は引き込まれていく。
余談。僕はこの映画をきっかけに韓国映画にハマった。ポン・ジュノ監督の映画は当たり外れがない。『母なる証明』と『グエムル〜漢口の怪物』をお勧めする。もう一つ余談。韓国の好きな俳優は、男優ではソン・ガンホ、女優はチョン・ドヨン。上手い俳優である。唸ってしまう。彼女の映画も機会があれば紹介していく。
2013.7.12 月藻照之進