2013参院選・埼玉:「劣悪な条件、使い捨て」 「ブラック」か「非正規社員」

二択迫られる若者 /埼玉

http://mainichi.jp/area/saitama/news/20130719ddlk11010213000c.html
毎日新聞 2013年07月19日地方版

 政府の規制改革会議は6月、勤務地や労働時間、職務内容を限定した新たな制度「限定正社員」などで非正規社員の正社員化や派遣労働の拡大を目指す方針を示し、参院選では各党が雇用政策を掲げる。若者の雇用の現状を垣間見ようと、問題化している「ブラック企業」で働いた女性を訪ねた。【西田真季子】

 「前の環境に戻ることは考えられない。どこかまひしていたのかな」

2008年4月から11年3月まで、県北の犬の訓練所に勤務した、さいたま市の女性(25)は言う。劣悪な労働条件で若者を使い捨てにする、典型的なブラック企業だったと、今は思う。

 通っていた東京都内の動物関係専門学校にあった求人票で会社を知った。給料は月10万〜12万円とされていたが、社長は面接で「お小遣い程度にはなるよ。頑張り次第で2ケタにいく」と言った。犬の訓練士資格受験の条件となる実地経験を積むため、就職を決めた。雇用契約書はなかったが、「こだわっていたら働けないと思った」と振り返る。

 休みは週1回あった。だが、住み込みのプレハブの6畳間にはエアコンもなく、風呂は共用で、手取りは月3万〜4万円。天引きされたという部屋代や食費がいくらだったかすら分からない。徒弟制度の雰囲気が色濃く残る特殊な業界だから仕方がないと思っていた。

 女性を含めた訓練士見習いが3人、トリマー2人が勤務し、業務は見習いも社長も同じ。多い時には50頭もの犬の世話をし、訓練所の敷地や周辺で散歩やトイレの訓練や、しつけをした。

 資格を取りたい思いと、親に支払ってもらった専門学校の学費のことを考え、3年間耐えて働いた。だが11年3月に社長に仕事上の意見をすると「言うことを聞けないなら、来月から1年間休んでもらう」と突然言い渡された。

 非正規雇用の若者らが加入する労働組合「首都圏青年ユニオン」(本部・東京都豊島区)に駆け込み、最低賃金分の給与支払いや未払いの残業代の支払いなどを求め会社と交渉した。和解後、携帯電話会社などで派遣をしてためたお金も加え、今年4月に犬の訓練士として独立した。

  女性と会社の交渉に関わった同ユニオン事務局次長、神部紅(じんぶあかい)さんは「雇用契約書に書いていることが既に法律違反というケースもあり、20〜30代の若者はその中から選ばざるを得ない」と強調。さらに「過労死するまでブラック企業で正社員として働くか、(低賃金の非正規社員で)貧困に陥るか、究極の二択を迫られている」と、若者を取り巻く雇用環境の厳しさを指摘する。

  総務省が12日に発表した調査結果(12年)で、雇用者全体に占める非正規社員の割合は38%と過去最高を更新した。新卒採用、終身雇用というモデルが崩れた後の新たな労働ルール作りが求められている。

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