働き方ネット大阪第9回つどい
働き方をどう変えるか―民主党政権に注文する
全損保大阪地方協議会副議長 本 間 ふみ秀
2009年11月6日(金)午後6時半から、働き方ネット大阪第9回つどいが開催されました。今回のつどいは「働き方をどう変えるか」をテーマに、政権党となった民主党に対する注文も織り交ぜながらの進行となりました。基調講演を法政大学教授である五十嵐仁先生にお願いし、開会の挨拶を関西大学教授の森岡孝二先生が行いました。岩城穣弁護士が司会をして人気を博しているお馴染みのリレートークもあり、「私たちの手で政治を大きく変えていこう!」というアピールを全会一致で採択、最後は働き方ネット大阪の服部信一郎副会長から明るく力強い閉会の辞があり、盛りあがる中で集いは終了しました。
政府・財界によるホワイトカラーエグゼンプション導入企図を発端に始まった働き方ネット大阪のつどいですが、子供の貧困問題や過労死問題なども取り上げ、今の社会問題を市民の側から提起して解決を迫るという立場を貫き、第9回を数えるまでになりました。参加者も弁護士などの法曹界をはじめ労働組合、NPO法人など各種団体から一般の方々にいたるまで多様で、マスコミを含めこのつどいが提起する問題への関心がいかに強いかを示しているといえます。
12月3日には「社会変革の波を起こそう〜時代はまるで資本論」というテーマで第10回のつどいを予定しています。ここ2、3年小林多喜二の『蟹工船』がブームとなっていますが、三大経済学者の一人といわれるカール・マルクスの著した『資本論』も静かなブームを呼んでいます。マルクスは労働者を貧困に陥れる資本主義経済の仕組みを明らかにしました。マルクスの言う、資本家に搾取され保護のない労働環境で悲惨な状態におかれる労働者とは、労働者の3分の1が非正規雇用で、3分の1が年収200万円以下という今の日本の雇用情勢に通じるものがあります。新しく誕生した民主党政権の政策に注目しつつ、働く者の人権を勝ち取り、社会を変革する第一歩になればと考えています。
さて、今回のつどいで森岡教授は「2006年が労働者の反転攻勢の分岐点」と振り返り、経団連が導入を目論んだ「ただ働き促進法・過労死促進法」とでも言うべきホワイトカラーエグゼンプションを打ち砕いたこれまでの経過を説明しました。また、米国・財界べったりではない政策を求めるには、まだまだ民意の結集が足りないと指摘、この問題を取り上げるのに最もふさわしい学者として五十嵐教授を挙げられました。
五十嵐教授の基調講演では、「労働者が反転攻勢に転じるプロセスを構成する要素として、8月の総選挙があった。また、自民党崩壊を言い続けていた自分としては一時虚脱状態に陥った」とユーモアを交えつつ、「鳩山政権は民意を受けて対米交渉するだけ自民党政権よりはるかに期待できる」、「日本を変える力となるよう活動を続けたい」と決意を述べられました。一方、「貧しい日本の発見」というテーマでは、貧困率や人口減少、自殺の多さなどをデータで提示し、日本が直面している本当の危機について言及しました。そして、「豊かな社会でこそ企業は栄える」との概念を示し、技術立国を志すべきと指摘、環境問題、ディーセント・ワークの実現、労働組合運動をめぐる新たな展開がその要素となると説明しました。最後に、問題解決のための3つの課題として?働く機会の保障、?普通に働けば普通に収入が得られる社会、?家庭生活を阻害しない適正な労働時間への短縮を挙げ、課題解決のために「溜め」―ゆとりとあそびのある人間社会―や声を上げ続けることで新政権を動かすとし、長生きして喜べる社会にしていくという言葉で基調講演を終えられました。
恒例のリレートークでは、これまでどおり3人のパネリストが参加しました。派遣切りにあったTさんは生活保護をめぐる諸問題について語りました。Tさんは、まだ派遣が認められていなかった平成14年から大手自動車メーカー子会社の製造ラインで個人請負(偽装請負)という形態で勤務していましたが、平成19年期間工にならなければクビを言い渡され、平成21年には期間満了を理由に解雇されました。この間、本人の知らない間に派遣社員となっていました。労働局が実態を知りながら是正措置を何もとらなかったことにも怒りを向け、現在解雇無効を訴えて提訴しています。Tさんは生活が困窮したことから松原市の生活保護を受けています。職業訓練学校で介護職員の教育を受けていますが、交通費が出ない、布団も出してくれないうえ、毎月10万円が支給される能力開発機構に申請を行うと生活保護を打ち切られると通告され、人間らしい生活を勝ち取るため、現在生健会の協力を受けて交渉しているところです。民主党政権に対しては、自分以外に困っている人がたくさんいるので、会社が違法行為を行えないような仕組みをつくり、経営者に処罰を加えることができるような制度を構築することを訴えました。
地域労組おおさか青年部の中嶌聡さんは自身の経験を踏まえ、「現場で違法行為を受ける労働者は『自分が悪い』と思う傾向にある。しかし、会社を辞めても次の会社ではまた居場所がなくなって同じことになる」、と相談に訪れた労働者に説明し、まずその意識を払拭することからたたかいを始め、団体交渉などで会社に対して反撃していくという姿勢を示しました。独自のアンケートを行い、その結果から「反撃」、「居場所」、「運動」がキーワードになることが浮かび上がったとの報告がありました。民主党政権に期待するのはリーダーシップ。労基署、生活保護がそのままきちんと機能していれば問題はない。サービス残業をなくすだけで160万人の雇用が生まれるという資料もあり、法律どおりに政策を推し進めれば評価に値すると述べました。
最後に村田浩治弁護士は、クビの切り方が従来の整理解雇とは違い、不況になりそうだからといって解雇し、まるで人が在庫調整の対象になる様相を呈していると断じました。また、首切りは正社員にも及んでおり、体調を崩した社員を解雇する「うつ社員切り」も行われていると指摘しました。また、民主党政権になって、もやいの湯浅誠さんが政権入りしているほか、職安事務所で生活保護・労働相談をワンストップで受ける態勢ができているので、昨年末の「派遣村」のような問題は起きないと思う、と述べました。しかし、民主党で派遣問題について理解している議員はゼロに近く、派遣法について民主党が懇意にしている労働組合との関係を考えると、これからの動きに注視していく必要がある。労政審のメンバーは自民党時代から変わっていないこともあり、派遣法の抜本改革が歯抜けになる懸念を示しました。とはいえ、民主党の新人議員にはこうした問題に耳を傾けて反応する傾向があり、きっちり伝えれば自民党時代とは違う結果になると期待しました。今後の我々の取り組みとしては、こうした集まりに参加することであるとし、こんな実態があることを訴えていくことであるとして締めくくりました。