規制緩和から労働者保護へ
派遣法改正 報告案どうみる
労働者派遣法の改正審議が大詰めを迎えました。25日の労働政策審議会労働力需給制度部会で最終報告がまとめられる予定です。報告案を検証してみると―。(深山直人)
報告案は、不安定な「登録型派遣」(仕事のあるときだけ労働契約を結ぶ)について、「常用雇用以外の労働者派遣を禁止する」とし、専門26業務などをのぞいて原則禁止。「派遣切り」で改めて問題になった製造業派遣についても、「常用雇用」を例外として原則禁止するとしています。
また、「偽装請負」など違法派遣が行われた場合、派遣先が派遣労働者に「労働契約を申し込んだとみなす」規定を導入。労働者が受諾すれば派遣先に直接雇用されるようにするとしています。
派遣労働は、“臨時的・一時的業務に限定し、常用労働者の代替にしない”という大原則で認められたものです。ところが、1999年に原則自由化、2003年には製造業にまで解禁されるなど、規制緩和で野放しにされてきたことが、派遣切りを生みました。
しかし、昨年出された自公政権の改正案は、登録型にも製造派遣にも一切手を付けず、超短期雇用を繰り返す「日雇い派遣」だけを原則禁止するものでした。偽装請負など派遣先が違法行為をしても、行政が派遣先に直接雇用の勧告をするだけにとどまっていました。
これに対して報告案が、登録型派遣や製造業派遣について「原則禁止」とし、「みなし規定」を導入したことは、長らく続いた規制緩和から規制強化・労働者保護へと転換を求める労働者のたたかいが反映したものです。
その上で、労働者・国民が求める抜本改正とするには、ただすべき問題点が残されています。
登録型・製造業は禁止
一つは、登録型派遣や製造業派遣で、「常用雇用」を禁止の例外としていることです。
「雇用が安定している」というのが理由ですが、「常用雇用」といっても、厚労省「業務取扱要領」では、短期の派遣契約でも繰り返して1年を超えれば「常用」と見なされることになっています。これでは不安定な短期契約が温存されることになってしまいます。
審議会でも労働者委員から「常用雇用だといっても安定性が高いとはいえない。問題のある雇用が継続される」との意見が上がりました。常用雇用とは「期限の定めのない雇用」だと明記することが求められます。
しかも、製造業派遣は偽装請負など違法派遣がまん延しており、派遣法の原則に背く「常用代替」が明らかであり、例外を設けることなく全面禁止することが求められます。
「みなし規定」について、派遣先が就労させない場合、行政による勧告にとどまっていることも問題です。
現行法でも大企業は行政から指導を受けても従おうとしないのが実際です。日本労働弁護団は、みなし規定が「民事的効力」を有することを明記するよう主張。全労連は「罰則を含めた行政の介入を明記して、派遣先との労働契約の成立を担保する制度とすべきである」と求めています。
また、直接雇用される場合の契約期間について、派遣元と結んでいたのと同じ契約期間となるとしています。これでは、直接契約後に短期間で雇い止めされてしまいます。全労連などは「期間の定めのない雇用」とするよう求めています。
均等待遇・責任強化を
派遣労働者と派遣先の労働者の「均等待遇」については、「均衡を考慮する」との規定にとどまっています。
ヨーロッパでは当たり前の原則ですが、日本では正規労働者と同じように働いていても「賃金は半分以下」など劣悪な状態におかれ貧困と格差の元凶になっています。全労連などは「均等待遇の義務づけ」を求めています。
企業が派遣労働者を使う大きな動機は「人件費の削減」であり、均等待遇を課すことで派遣労働の増大に歯止めをかけることにもつながるものです。
「時間がない」として派遣先責任の強化が盛り込まれませんでした。連立与党案にも盛り込まれた、派遣労働者との団体交渉に派遣先企業が応じる義務を課すことや、育児休業を理由とする不利益取り扱い禁止など派遣先企業に対する責任強化が求められます。
見逃せないのは、猶予期間です。
骨抜きをねらう使用者委員の主張を受けて猶予期間が3年とされた上、登録型派遣のうち一部業務について、さらに2年間の猶予期間が設けられました。対象は「比較的問題も少なく労働者のニーズもある業務」と極めてあいまいです。
派遣法の抜本改正は非人間的な「使い捨て労働」をなくすため急務です。先送りは許されません。
報告案の主な内容
登録型派遣
原則禁止。専門26業務、産前産後代替要員などは除く
製造業派遣
原則禁止。「常用雇用」は除く
日雇い派遣
2カ月以下の派遣禁止。政令で例外を規定
均衡待遇
均衡を考慮する
みなし規定
違法派遣の場合、派遣先が労働契約を申し込んだものとみなす。就労させない派遣先に行政の勧告制度を設ける
マージン(派遣元の取り分)率
全体の平均率と1人当たりの派遣料金を明示
施行期日
登録・製造派遣の原則禁止は3年後。登録型派遣の一部業務はさらに2年間猶予