焼き打ちされたスズキのインド子会社マルチ・スズキのマネサール工場の守衛室=19日、インド・グルガオン(共同)
スズキのインド子会社、マルチ・スズキで18日に発生した従業員による暴動は、生産体制の急拡大を図る企業側と、低賃金で採用される短期契約社員たちとの摩擦が背景にあるようだ。マネサール工場では昨年にも労働争議が起きており、昨年度は計画より生産が8万5千台も少なくなるなど、大打撃を受けた。今年1月にはマネサールで第2工場が稼働、反転攻勢をかけようとした矢先だっただけに、先行きの不透明感が強まっている。
現地の関係者の話を総合すると、マネサール工場は約3000人の従業員のうち半数以上が短期の契約社員という。契約社員の給与はハリヤナ州の最低賃金を上回るものの、福利厚生では正規社員には及ばない。契約社員には他州出身者のほか低カースト出身者が少なくない。
インフレの進行で食料品や燃料費は高騰し、契約社員の生活は「働けど苦しくなる状態だ」(現地のエコノミスト)という。急成長する大企業で、収入が増える正規社員との格差を目の当たりにする契約社員には賃金面での不満が高まっていたようだ。
共産党系の労組による外国資本の大企業を標的とした労組立ち上げの動きがあったの情報もあり、スズキ側も警戒を強めていたとの指摘もある。
スズキは今後、西部グジャラート州に新工場を建設する方針だ。州政府の影響力が強く、外国資本の誘致に積極的なことから労働争議が抑えられるとの期待が高い。リスクヘッジの側面もありそうだ。
スズキのインドでの生産台数は日本国内の102万台(昨年度)を抜き、世界生産280万台の4割を占める「生命線」だ。争議が長期化すれば業績悪化は避けられない。
急成長するインドの自動車産業では、韓国の現代自動車や外資系タイヤメーカーなどでも、組合設立の要求をめぐる労使対立がたびたび問題化している。半面、これはインドに限った問題ではない。中国では賃上げや待遇改善を求めるストやデモが頻発し、バングラデシュでも同様の動きが相次いでいる。(外信部 田北真樹子、経済部 平尾孝)
注: 記事中の「契約社員」は「期間工」を指す。