非正規労働者の「心の問題」置き去り 元契約社員、ワコール提訴 京都

産経新聞 2013.1.31

 ストレスで休職後、心身の健康に配慮した職場復帰などの支援を受けられず重度の鬱うつ)病を発症したとして、兵庫県内の元契約社員で百貨店の下着売り場店長を務めていた女性(45)が30日、大手下着メーカーの「ワコール」(京都市南区)に、約2260万円の損害賠償を求める訴訟を京都地裁に起こした。提訴の背景には、メンタルヘルスの不調に陥った非正規労働者を取り巻く厳しい現状がある。(奥田翔子、矢田幸己)

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独立行政法人「労働政策研究・研修機構」(東京都)が、平成23年6月に行った調査では「メンタルヘルスに問題を抱えている正社員がいる」と答えた事業者は全体の6割近くに上り、そのうち3割以上が「3年前と比べてその人数が増加した」と回答した。

 こうした状況を踏まえ、厚労省は18年3月に職場復帰支援など事業者が努めるべきメンタルヘルスケアの実施方法を定めた指針を策定。21年3月には休業した労働者の職場復帰支援の手引を改訂し、事業者に円滑な職場復帰支援を求めている。

 ワコールでも「管理職を対象とした研修を行うなど、メンタルヘルスケア対策を実施している」(同社広報宣伝部)という。

 しかし、原告の女性のように、非正規の労働者の場合、正社員よりもさらに職場復帰へのハードルは高いのが現実だ。期間満了時点で不調から回復していなければ、契約の更新はほとんど望めないという。

 こうした現状について、大阪大大学院の水島郁子教授(労働法)は「年休や病気休暇などが取りやすい環境づくりなど、事業者側にも非正規労働者への配慮が求められる」と提言する。

 訴状などによると、女性は平成21年12月から同社の契約社員として勤務。百貨店の輸入高級下着売り場で店長を務めていたが、売り場の移転・縮小で売り上げが減少したことなどから急性ストレス反応を発症し、22年10月から休職。

 女性は同社に対し、売り場の改善などを求めたが、同社は同年12月31日付で雇用契約を打ち切った。この過程で、女性の症状は重度の鬱病に発展した。

 弁護側は「同社は労働者の心身の健康を損なわないように配慮するとともに、健康に配慮して職場復帰を支援する義務を負っている」と主張。鬱病を発症したのは同社の安全配慮義務違反が原因としている。

 女性は「裁判を通して、企業がメンタルヘルスの患者を生まないようどのように努力すべきか考えてもらいたい」と話した。

 一方、同社広報宣伝部は「訴状が届いておらず、中身を精査できていないのでコメントは差し控えたい」としている。

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