朝日新聞 過労死のわけ知りたい 遺族、ワタミ経営陣に面会求める

朝日新聞 2012年10月30日

【牧内昇平】ワタミグループが展開する居酒屋チェーン「和民」に勤めていた娘を過労自殺で失った両親が、死後4年以上たった今も、「娘はなぜ死んだのか」と会社に問い続けている。自分と同じ思いをする人をなくしたい。それが、過労死遺族の思いだ。 


■両親「再発防ぐため」
 
「誰が、何が、娘を死に追いやったのか。ワタミは説明していません」
 
9月20日、東京都内のワタミ本社。過労自殺した森美菜さん(当時26)の父豪さん(64)が、ワタミ経営陣との面会を求める申入書を、社員に向かって読み上げた。娘の遺影を抱えた母祐子さん(58)が、険しい表情でうなずいた。
 
申入書には「私たちの時間は止まったままです」と書いた。「娘を死に至らしめたワタミの業務の実態を明らかにしなければ、再発防止はありえない」と豪さんは話す。
 
美菜さんは2008年6月12日早朝、社宅近くのマンションから投身自殺した。ワタミの子会社に入社し、神奈川県横須賀市の「和民」で働き始めてから約2カ月後のことだ。
 
美菜さんの日記や、会社から取り寄せた勤務記録を見て、夫妻は驚いた。連日午後3時前に出社し、平日は午前3時半、週末は朝6時まで働いていた。休日も朝7時からの研修会への参加を求められ、リポートも提出しなければならなかった。手帳には「誰か助けて下さい」と書かれていた。
 
「一生懸命働いて、使い捨てにされたことを証明したい」。夫妻は08年8月、横須賀労働基準監督署に労働災害の認定を申請した。労基署は、美菜さんが適応障害になっていたことは認めたものの、仕事によるストレスがそれほどなかったとして、申請を却下した。
 
夫妻は、自力で労働時間の記録をつくり、神奈川労災保険審査官に不服を申し立てた。今年2月、月141時間の時間外労働があったと認められ、労災が適用された。
 
労災は認められたが、会社の労務管理を改めてもらい、新たな被害を防ぎたい――。そう思った夫妻はワタミに話し合いを申し込んだ。
 
しかし、話し合いに出席するのは、会社の代理人の弁護士。会社はどのような考えで社員の労務管理をしているのか、そこに問題はなかったのか。本質的な問いには答えていないと感じる。夫妻は渡辺美樹会長ら経営陣との面会を求めている。
 
ワタミの矢野正太郎広報グループ長は、「以前から労働環境の改善は経営の重要課題と認識している。労働時間の把握、管理も効率的に行うようにしている。心身面が不調な社員の相談窓口もある。森さん夫妻とは、これまで通り代理人を通じて話し合いを続けたい」という。
 

 
〈労災認定と時間外労働〉 過労による労働災害かどうかは、仕事によるストレスと労働時間を総合的に考えて判断される。時間外労働は、脳出血や心筋梗塞(こうそく)の症状が出る直前1カ月間に約100時間超だったり、発症前の2〜6カ月間に月80時間を超えていたりする場合に、仕事と病気との関連が深いと評価される。
 
うつ病などの精神障害についても、昨年12月にできた新しい認定基準では、月100時間程度の時間外労働をしていた場合、仕事による負担が大きいとされる可能性が高い。

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