男性社員の育休取得率50% 千趣会の「イクメン」事情

SankeiBiz 2013/01/05

 育休を取得し、長男にミルクを飲ませる久保慶太さん(千趣会提供)【写真拡大】

 仕事と家庭を両立させる一環として、男性社員の「育児休業制度」を導入する企業が増加し、世に「イクメン」と称される育児に熱心な男性も増えつつある。ところがいざ取得となると、これがなかなかそうはいかないのが実態。そんな中、「ベルメゾン」で知られる通販大手の千趣会は、育休の取得率がなんと50%を超えるという。そこには独特のマニュアルの作成など、アノ手コノ手の会社ぐるみでの取得に向けた取り組みがある。

 育児体験を商品開発に生かす

 入社5年目の久保慶太さん(28)は、12月に3日間の育児休暇を取得した。8月に誕生した長男を散歩に連れて行ったり、ミルクやおむつ換えもこなし、イクメンぶりを存分に発揮した。「これまでも休日には育児にかかわってきましたが、1日や2日だと楽しい育児も、毎日となると大変でした」と話す。

 同社は仕事と育児を両立させるための制度づくりを積極的に進めており、男性社員にも、子供が2歳になるまでの間に5日間の休みが取得できる育休制度を導入。さらに、子供の誕生時に3日間の休暇を取得できる制度もある。

 そこには同社ならではの事情がある。通販の顧客は女性が多いということだ。この点、男性が育児を経験することで、子供をもった女性社員が働きやすい環境に対する理解を深めてもらうとともに、自らの育児経験を商品開発に生かすこともねらっている。

 パパになる人編、上司編…多彩なマニュアルが

 男性の育児休暇制度を設けている企業は珍しくない。その内容も各社各様だが、厚生労働省の平成23年度雇用均等基本調査によると、取得率はわずかに2・63%にとどまっている。

 制度があるのに取得が進まない理由は、「仕事が忙しくて休めない」「上司に言い出しにくい」というのが大半だ。そこには女性と違い、やはり“遠慮”がある。残念ながら、日本社会ではまだ「男性と育児」は市民権を得ているとはいい難い。

 ところが、先の久保さんは「取得するのが当たり前だと思っていました」という。それだけの風土が同社にはあるのだ。

 もちろん、自然とそうなったわけではない。育休を取得しやすい職場環境をつくろうと、制度の導入に合わせて、社内の風土改革やサポート体制を考える社内委員会「ハナメゾン」を平成17年に立ち上げ、いわば会社ぐるみでの活動に乗り出した。

 理解を深めるため、イラストや社員の体験談などで解説した「両立支援マニュアル」も策定した。

 これがじつにきめ細かい。出産する女性社員向けの「本人編」はもちろん、「パパになる人編」、さらに「上司編」「同僚編」まである。

 上司編では「まずは『おめでとう』と声をかける」から始まり、子供が生まれたら、育休を取得するよう“催促”することになっている。実際、久保さんは妻の妊娠中から育休をとるよう、上司にいわれていたという。

 身近な制度が高取得率のヒミツ

 パパになる人編には、妊娠発覚以降の女性の体調の変化について記すとともに、出生届の準備や保育所探しなど、どのタイミングで何をすればいいかが一目で分かる表もつけ、さまざまなアドバイスを盛り込んでいる。

 もちろん、当然ながら女性社員に対しても、取得を促しており、こちらの取得率は100%という。

 このマニュアルを全社で共有することで、育休取得の意識を高めることができ、女性社員だけでなく、男性社員の育休取得も当たり前になったのだ。

 同社より手厚い育休制度を導入している企業もあるが、たとえば取得できる日数が長くても、それなりの“条件”がついていたりすれば、実際問題として、なかなか取得できないことになってしまう。

 同社の場合、仕事の調整をつけやすい5日間という日数が男性社員にとって「身近」な制度に感じられ、それが50%という高い取得率につながっている。

 「女性であろうと男性であろうと、優秀な人材が長く働いて力を発揮することが、会社にとっては一番大切。より働きやすい環境整備に向けて、これからも取り組んでいきたい」(人事担当者)と話している。(阿部佐知子)

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