「橋下市長、生徒の姿見て」桜宮高保護者ら

2013年1月19日 読売新聞

 「学びの場所として不適切」「伝統や校風はゼロにして一新させる」――。大阪市立桜宮さくらのみや高校での体罰問題を受け、同高の体育系2科の募集中止を求める橋下徹市長が繰り返す“校風批判”。生徒や保護者に意識改革を迫るのが狙いとみられるが、同高の保護者やOBらからは「勝利至上主義というのは誤解」「子どもたちは傷ついている。夢を奪わないで」と反論の声が広がっている。
 
「学校全体の風土が(今回の問題の)根っこにある。断ち切らないといけない」
 
橋下市長は18日の市議会文教経済委員会の協議会でこう答弁し、募集中止を見直す考えがないことを強調。校長が自殺のわずか4日後に「(バスケ部が)新人戦に出場してもいいか」と遺族に打診したことや、学校が把握していない「寮」が存在していたことなどを挙げ、「生徒も保護者も教員も、部活動で勝つことに頭がいっぱいで、大切なことを忘れている」「暴力を容認する雰囲気の中で教育して、卒業生が同じような考えで指導するかもしれない」などと批判した。
 
これに対し、桜宮高を昨春卒業した野球部OB(19)は「先生からは『勝つことがすべてじゃない』『負けをどう生かすかが大事だ』と指導されてきた」と、勝利至上主義が蔓延まんえんしていた、との市長の見方を否定する。
 
中学生の時に練習を見学し、部員たちの一体感、質の高さを感じて「ここで野球がやりたい」と必死で勉強した。3年間、大阪府南部から毎日1時間半かけて通った。「先生方は厳しいことも言うが、生徒のことを考えてぶつかってきてくれ、本当に成長させてもらった。甲子園の夢は達成できなかったけど、桜宮でしか学べないことがあったと思う」と話す。
 
「桜宮に子どもを入れたことは間違ってなかった、と思う」と訴えるのは、体育科1年男子生徒の父親(50)だ。当初は自宅から遠い同高への進学に反対していたが、学校見学の際に校門で出会った女子生徒がきちんとあいさつする姿を見て、考えを変えた。
 
公式試合では、相手チームの好プレーに、桜宮の生徒が拍手を送るのをみて、感激したという。息子は毎朝、始発の電車で朝練に通う。近所の人にもきちんとあいさつをするようになった。
 
この父親は「仲間が自殺したのに『早く部活や試合がしたい』と言う感覚は確かに間違っている」と市長の指摘は認めたうえで、「桜宮には、規律や礼儀を重んじるという良い伝統もある。教員の総入れ替えで部の指導者が代わってしまったら、その指導を受けたい一心で入学した生徒たちがかわいそうだ。桜宮の魅力が失われたら、学校自体の存続が危うくなるのでは……」と心配する。
 
市長に対して抗議の声を届けようとする保護者も出てきた。18日に弁護士とともに記者会見した3年女子生徒の母親(52)は「娘は体育科の先生にあこがれ、たくさんの実習、厳しい先輩の指導を乗り越え成長してきたが、『桜宮高の伝統を断ち切る』と言われて泣いていた。伝統がつぶされたら、体育の教師になっても、戻るところがないと悲しんでいる」と訴えた。「市長は学校に来て生徒の姿を見てほしい。体罰はいけなかったことだが、子どもたちにチャンスを与えてほしい」と話した。

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