いじめ・就職難…増える自殺者、若者のSOS見逃さないで、相談嫌がる傾向も

2013/02/26 日本経済新聞 大阪朝刊

 2012年の年間自殺者数が15年ぶりに3万人を下回るなか、若者の自殺が増加傾向にある。内閣府が公表した昨年1〜12月の暫定値を合計すると、20代以下の自殺者は3388人で、年間自殺者数が同じく3万人以下だった1997年(3003人)を上回った。この間の少子化で、20代以下の人口は1千万人以上減っており、自殺率はさらに高まっている。

 「若い人の相談が増えた実感はない。全体の相談件数は年々増えているのだが……」。社会福祉法人「関西いのちの電話」の八尾和彦事務局長はこう首をひねる。

 全国組織の日本いのちの電話連盟によると、10代からの相談の場合、71年の発足当時は全体の2割程度を占めたが、現在は3%。岡本正子事務局長は「以前は面談を嫌がり電話してきたが、今の若者には電話さえハードルが高いのかもしれない」とみる。

 ただ変わらないのは、10代の自殺の主因が「いじめ」であることだ。

 「娘の香澄は15年前にいじめを受けて自殺したんです」。1月中旬、千葉県佐倉市の染井野小学校。底冷えする体育館で約330人の児童が身じろぎせず、いじめ問題に取り組むNPO法人「ジェントルハートプロジェクト」の小森美登里さん(56)の言葉に耳を傾けた。

 小森さんは、いじめは「以前に比べて陰湿化している」とみる。背景にあるのが、子供たちに急速に広まった携帯電話。「裸の写真をインターネットに流すぞ」と脅された中学生の話も聞いた。

 「ネット社会では、傍観者はいつ次のターゲットになるか分からない」が、親や教師は見つけにくい。小森さんは自身の体験を全国で語り続け、22日で千回を数えた。

 大学生では、就職先が決まらないことを苦にした「就活自殺」が増えている。内閣府のまとめでは、全国の大学生の自殺者を動機別にみた場合、07年は13人だったが徐々に増え、10年以降は40人以上が続く。関西大の森岡孝二教授(企業社会論)は「発表された数は遺書などで動機が特定できた人数。実際はもっと多い」と指摘する。

 対人関係の難しさも若者を追い詰める。「メールの返事が来ないだけでイライラして死にたくなる」。「いのちの電話」の相談にはそんな声が寄せられる。だがSOSをキャッチするのは容易ではない。

 若者の自立支援に約30年間取り組んできた「青少年健康センター」の斎藤友紀雄会長は「若者の自殺は時代を映すバロメーター」と話す。ネットやニュースを通じて自殺が連鎖しやすいのも「普段から緊張状態に置かれている表れ」という。

 斎藤さんらは昨年、長年の経験を自殺予防に生かそうと、精神科医らが電話や面接で相談に応じる「クリニック絆」を立ち上げた。相談は半年で100件。「若者が発するサインに気付き、社会全体で受け止めていくしかない」と訴えている。

【表】若者の悩みを受け付ける主な相談窓口
○関西いのちの電話(関西いのちの電話)
(電)06・6309・1121
○チャイルドライン〓 (チャイルドライン支援センター)※18歳以下
(電)0120・99・7777(月〜土曜)
○子どもの人権110番(法務省)
(電)0120・007・110(月〜金曜)〓ホームページ(http://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken113.html)からも可
○24時間いじめ相談ダイヤル(文部科学省・自治体)
(電)0570・0・78310
○子ども110番(ダイヤル・サービス社)
ホームページ(http://www.kodomo110.jp/)に専用フォーム

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