朝日新聞 2013/06/01(イラストは左をクラックすると見られます)
ブラック企業って何なの?
「ブラック企業(きぎょう)」という言葉を知ってますか。主に20〜30代の人たちの間で広まっている言葉で、とても長い時間働かせたり、働いた分のお金をきちんと払わなかったりする会社のことです。どうして、こんな言葉が流行(りゅうこう)しているのでしょうか。
■残業代払わず、いじめ野放し
働く人の権利(けんり)は、法律(ほうりつ)で守られている。例えば、働く時間は原則(げんそく)として、週40時間、1日8時間までと決まっている。それ以上長く働くこと(残業(ざんぎょう))もあるが、余計(よけい)に働いた分のお金(残業代(だい))は、会社からもらえる。正当な理由がないのに会社を辞(や)めさせられることはない。安全な環境(かんきょう)で働く権利もある。
こういった法律があるのに、実際に働いている人の中には「権利が守られていない」と感じている人が多い。
「1日15時間も働かされて、病気になった」(20代男性)、「急に給料(きゅうりょう)が減らされたので抗議(こうぎ)したら、辞めさせられた」(30代男性)、「同僚(どうりょう)からいじめられたのに、上司(じょうし)が助けてくれなかった」(30代女性)。
社員からこんな不満の声が上がる会社が「ブラック企業」と呼ばれている。企業とは会社のこと。ブラックは「邪悪(じゃあく)な」などという意味だ。
この言葉が使われ始めたのは2008年ごろから。働き方に疑問をもつ20〜30代の人たちが、インターネットの掲示板(けいじばん)に「うちの会社はブラックだ」と不満を書き込んだ。
これをきっかけとして、法律を守っていなかったり、働く人の権利を軽んじたりする会社が、業種(ぎょうしゅ)や会社の大きさにかかわらず、ブラック企業と呼ばれるようになった。
学校を卒業して会社員として働き始める人(新入社員)が、会社をすぐに辞めてしまうと問題になっている。働く意欲(いよく)をなくさせるブラック企業の存在も原因の一つとみられている。
さらに心配なのが、ブラック企業で無理して働き続けた結果、心や体の調子を崩(くず)してしまう人がいる点だ。働きすぎて心の病気になり、20代で自殺(じさつ)した人もいる。
■国の厳罰を望む声も
このような言葉が、20〜30代の人の間で流行しているのは、なぜか。
働く問題に詳しい関西(かんさい)大学の森岡孝二(もりおかこうじ)教授は「いまの20代の人が、かつてないほど厳(きび)しい働き方をさせられているからだ」と話す。
世界的金融危機(きんゆうきき)(リーマン・ショック)のあった2008年に経済が急に悪くなり、もうけが減った会社が社員の募集(ぼしゅう)を減らした。
このため、学校を卒業しても仕事が見つからない人が増えた。ようやく仕事を見つけた人は「仕事がないよりはましだ」と考え、厳しい働き方にもがまんするようになった。
ブラック企業はそんな状況を利用し、社員を安い給料で長い時間働かせ、会社の出費(しゅっぴ)を減らしてもうけを出そうと考えた。いま働いている人が辞めても、次の人が簡単に雇(やと)えるため、どんどんひどい働き方をさせるようになった、という。
昔から日本の会社では、働く時間が長すぎることが問題になっていた。だがその分、良い面もあった。
多くの会社が社員を60歳まで雇い続け、年をとればとるほど給料を増やした。いったん採用した社員はなるべく辞めさせずにじっくり育てることが、会社の責任と考えられてきた。
ブラック企業は、長い時間働かせる点は昔の会社と同じだが、社員の暮らしを長いあいだ保障(ほしょう)する役割(やくわり)は、果たそうとしない。そういった虫のよさが、働く人の不満を買っている。
ブラック企業をなくすには、どうすればいいのか。森岡教授は「働かせ方がひどい会社は、国が厳しく罰(ばっ)するべきだ」と指摘(してき)する。労働基準監督署(ろうどうきじゅんかんとくしょ)という役所が、働く人の権利を会社が守っているかをチェックしている。その機能を強める必要があるという。(牧内昇平)