東京新聞 2013年12月13日
写真 勤務時間などが書かれた労働条件通知書(省略)。
働くことは暮らしの基本。正社員であろうと非正規雇用であろうと、そこには働く者を守るルールが存在する。だが、労働契約にない時間外労働を強いられたり、働く側に知識のないことにつけ込んでルールを曲げたりするなど、現実には守られていないこともある。働く者にとって最も忙しい時期だからこそ、働くルールについて二回に分けて考える。
三重県内の女性(50)は一昨年末、求人チラシを見て、ウイークリー(短期賃貸)マンション管理のパートタイマーに応募した。勤務時間は午前九時〜午後三時(休憩三十分含む)で、週休一日。「面接時の説明では段取りよくやれば、時間外は年二、三回と言われた」と振り返る。
仕事はマンション一棟の受付、清掃のほか、商業ビルなど三棟の清掃、電球交換やトイレットペーパー補充など。突発的な業務もあり、台風による雨漏りで夕方に呼び出されたり、停電対応で休日に出勤したり。本来の業務ではないが、マンションの宅配ボックスを業者に登録するため、遠方に出向いたことも。
女性には障害のある子どもがおり、母子家庭。割増賃金は支払われていたものの、「家庭の事情もあり、月二、三回の時間外勤務は負担が大きかった」と話す。あるとき、マンション利用客を違う部屋に案内したミスをとがめられた。「やめてもらえますか」と言われたのを機に、二年近く勤めた会社を退職した。
「そもそも当初の条件でこなせる仕事量ではなかったと思う。これから経済的に不安」
この会社の担当者は、「時間外勤務があることは求人チラシにも書いており、年二、三回と言ったのは深夜の呼び出しのこと。体調が悪くなるほどの長時間労働を強いたわけではなく、会社員として一般的に受け入れられる範囲と考える。納得できないなら退職してもらうしかない」と話す。
◆よく確認し、書面化
求人の際、事業所は就業時間や有給休暇などの労働条件を明示する必要があるが、実際はこの女性のように契約内容と違う条件で働く場合も多い。中には本来より良い条件を提示し、求職者を募る事業所もあるようだが、労働局も実態把握が難しく、有効な対策はないのが現状だ。
労働問題に詳しい名古屋市の加藤悠史(ゆうし)弁護士によると、一般的に時間外労働がある場合は労働契約書面で示さなくてはいけない。契約時に合意のない時間外勤務を命じられた場合は、断る権利がある。ただ、「従業員の少ない事業所などでは、現実的に断れないこともある」という。一日八時間、週四十時間を超えて働かせる場合は、労使合意とは別に、事業所は所管の労働基準監督署へ届け出る必要がある。
東海地方のある労働局担当者によると、事業所が契約書面通りの働き方をさせるかどうか、事前に見極める有効な方法はないという。最低賃金以下の給与だったり、労働問題で係争中だったりする場合を除き、基本的にハローワークは求人の申し込みを拒めない。
この労働局には、多いときで一日三件は同様の相談が寄せられる。事業所には、その後の採用の際に適切な条件提示をするよう、指導することしかできないという。書面だけでどんな会社か判断するのは難しい。担当者は「面接時にしっかり条件を聞き、きちんと書面にすることが重要。可能なら事業所を見学させてもらうのも有効」と話す。
一人でも加入できる労働組合「日本労働評議会」東海地方本部委員長の豊岡真弓さんによると、問題の発生時、書面や録音が残っているといないとで、結果が圧倒的に違うという。「不景気なときは雇われる側が圧倒的に不利。ブラック企業も表向きはよく見えるので、後で食い違いがあるかもしれないとの前提で、契約書面を交わすことが重要」と助言する。不安があれば、労基署や弁護士、労組などへの早めの相談を勧めている。 (田辺利奈)