毎日新聞 2014年01月15日 20時13分(最終更新 01月15日 21時06分)
経団連は15日、2014年春闘で経営側の交渉指針となる「経営労働政策委員会報告」(経労委報告)を発表した。賃金引き上げについて「ここ数年と異なる対応も選択肢」と積極的な検討を促した。ベースアップ(ベア)は明記しなかったが、賃上げには「多様な対応が考えられる」と表現して事実上容認。「実施する余地はない」と一蹴した13年報告から一変した。
賃上げに前向きな姿勢を打ち出すのは、08年報告以来6年ぶり。企業の経営環境は安倍政権の経済政策で劇的に変化し、収益の改善が進んでいると総括。08年のリーマン・ショック後の厳しい経営環境の中で定期昇給凍結の可能性まで示唆してきた過去の報告から様変わりした。
経団連と連合は27〜28日に東京都内で労使フォーラムを開き、14年春闘が本格スタートする。連合は定期昇給(約2%)を実施したうえで、ベア1%以上を求める方針を決定している。円安の追い風を受ける輸出企業などは賃上げに前向きだが、一時金増額だけでなく、ベアを実施する企業がどこまで広がるかが焦点になる。
デフレ脱却を最優先課題に掲げる安倍政権は、今年4月の消費増税後の景気の腰折れを回避するため経済界に積極的な賃上げを要請している。昨年12月には政労使の3者会議で「経済の好循環を実現するため企業収益の改善を設備投資や雇用の拡大、賃金引き上げにつなげていく」との合意文書をまとめた。
このため今回の経労委報告は「わが国経済の好循環実現が必要との認識を踏まえ、労使交渉に臨む」と強調するなど、政府の取り組みと歩調を合わせることに力点が置かれた。賃上げの具体的な方策については「賞与・一時金のみならず、特定層の賃金水準引き上げや諸手当改定など」と記載し、ベアも否定しなかった。
記者会見した宮原耕治副会長(日本郵船会長)は今の経営環境について「歌にたとえれば『北国の春』だ。氷は解け、南風が吹き始めたが風はまだ冷たい」と表現し、賃上げで個人消費を底上げし、景気回復につなげる好循環の実現に向けた企業努力とともに、政府にも成長戦略実行などの注文をつけた。【大塚卓也】
◇経営労働政策委員会報告の骨子
物価の上昇傾向がさらに明確となれば、それも考慮して労使が話し合い、自社の状況にかなった対応を取る
業績が好調な企業は、拡大した収益を雇用拡大、賃金引き上げに振り向けることを検討する。
賞与・一時金への反映のみならず、特定層の賃金水準引き上げや諸手当改定など、多様な対応が考えられる
政府は社会保障給付の重点化・効率化を通じ、社会保険料増大の抑制策を講じるべきだ
◇過去の経労委報告のポイント
2006年 横並び春闘は終えん。賃上げは個別交渉で判断
07年 業績好調企業の賃上げは否定しないが、賞与・一時金の増額が基本
08年 企業業績は増収基調だが、横並びのベアはあり得ない
09年 世界同時不況の様相で、雇用の安定に努力
10年 賃金より雇用を重視。定期昇給凍結も議論
11年 定昇維持を容認。1%の賃上げ要求には否定的
12年 ベアは論外。輸出企業などで定昇の延期・凍結も
13年 ベア実施の余地はない。定昇見直しの記載は削除
14年 ここ数年と異なる対応も選択肢
◇定昇とベア
年齢や勤続年数に応じて毎年自動的に昇給するのが定期昇給(定昇)。これに対し、ベースアップ(ベア)は会社の業績や物価に応じて、従業員全体の基本給を底上げすることを指す。定昇のみであれば、翌年の基本給は同じ職場の1年先輩と同じだが、ベアが実施されると今の先輩の基本給よりも多くなる計算。月給が高くなるだけでなく、ベアは一時金や退職金にも反映されるため会社が支払う総人件費は増える。今春闘では定昇の維持に加え、ベアを求める労働組合が多い。