職場の暗部 見つめ続け

関西大・森岡孝二教授、退職へ

16日の講義で教壇に立つ森岡孝二・関西大教授=大阪府吹田市(写真省略)

 過労死に非正規雇用の増加、ブラック企業の横行。時代とともに変容する労働環境の「負」の側面に目を光らせてきた名物教授が20日、教壇を去る。関西大学の森岡孝二さん(69)。最後の授業に選んだ演題は、「働き方から見た目本経済の半世紀」―。

 高度経済成長期に大学時代を過ごし、「労働時間」をテ−マに経済学の道へ。現場の労働問題に目を転じたきっかけは1988年に心臓を患って入院したときの経験だ。同じ病室の大企業の部長が「窓際」に追いやられるのを恐れ、入院を隠そうとする姿を目の当たりにした。バブル景気の裏で、過労死が社会問題化しつつあった時期だ。

 労災申請や訴訟を支援する「大阪過労死問題連絡会」に参加し、今は会長を務める。

 月平均300時間以上の労働を1年続けた末に亡くなった製造業の現場責任者。1日14時間超の勤務後も自宅での残業や仕事で必要な資格試験の勉強に追われ、34歳で死んだ菓子メーカー社員……。実態を著作で世に問い続けた。

 「昨今の労働環境の変化は驚くほど。取り組むべき問題はまだまだある」。リーマン・ショック後は非正規雇用増大の一方で、数を絞り込まれた正社員の若者が命を絶つ「過労自殺」が目立つ。定年で退職するが、過労死防止基本法制定を求める活動を続ける。

 最終講義で教え子にはこう訴えるつもりだ。「理不尽な働かせ方に従うだけでは自分を追い詰めてしまう。ためらわず声をあげてほしい」(太田航)

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