Jキャストニュース 2014/1/9
哲学者の長谷川三千子氏が産経新聞に寄せたコラムが波紋を広げている。長谷川氏は元々保守的な論調で知られているが、今回のコラムの内容は、男女共同参画に真っ向から反対する内容だ。
ウェブサイトに掲載された記事はすでに1500回以上ツイートされており、批判的な声の方が多いようだ。長谷川氏が安倍内閣の意向でNHKの経営委員を務めているという点も、波紋をさらに大きくしている。
「生活の糧をかせぐ仕事は男性が主役となるのが合理的」
長谷川氏は2014年1月6日、産経新聞の「年頭にあたり」というコラム欄に「『あたり前』を以て人口減を制す」と題した寄稿をした。日本の人口が減少することを危惧し、長谷川氏はその解決方法を
「日本の若い男女の大多数がしかるべき年齢のうちに結婚し、2、3人の子供を生み育てるようになれば、それで解決です」
と断言した。この解決策に対して
「政府や行政が個人の生き方に干渉するのはけしからん」
といった批判が予想されることについては、1999年に施行された男女共同参画社会基本法の第4条「社会における制度又は慣行についての配慮」の条文を引用しながら、条文の趣旨を
「どういうことなのか具体的に言えば、女性の一番大切な仕事は子供を生み育てることなのだから、外に出てバリバリ働くよりもそちらを優先しよう。そして男性はちゃんと収入を得て妻子をやしなわねばならぬ−−そういう常識を退けるべし、ということなのです」
と要約。行政の側が以前の常識を覆したに過ぎないため、批判は「全くおかしな話」と断じた。
さらに、女性が出産可能な年齢に労働することが出生率低下につながっているとした。
「妊娠、出産、育児は圧倒的に女性の方に負担がかかりますから、生活の糧をかせぐ仕事は男性が主役となるのが合理的です。ことに人間の女性は出産可能期間が限られていますから、その時期の女性を家庭外の仕事にかり出してしまうと、出生率は激減するのが当然です」
その上で、1972年施行の男女雇用機会均等法を引き合いに、
「政府、行政は一貫してその方向へと『個人の生き方』に干渉してきたのです。政府も行政も今こそ、その誤りを反省して方向を転ずべきでしょう」
と、女性が家庭内にとどまる方向に政策を転換すべきだと主張した。
津田大介氏「賛同する人も結構いそう」
ウェブサイトにも掲載されたこのコラムは、すでに1500回近くツイートされており、その中には著名人のツイートも散見される。例えばアイドル評論家の中森明夫さんは、女子教育の権利を訴えたパキスタン人の少女、マララ・ユスフザイさん(16)と比較しながら
「他方、どこかの国の大学名誉教授は『女は性差を受け入れて子供を産め』だとさ」
と皮肉った。ジャーナリストの津田大介さんは、
「『日本を取り戻す』の背後にあるとてもわかりやすい価値観だけど、賛同する人も結構いそう」
と論評。また、「毒婦。 木嶋佳苗100日裁判傍聴記」(講談社文庫)などの著書がある北原みのりさんは、
「女が働きにくくジェンダーギャップが激しい国ほど少子化になっているのが、21世紀の当たり前、なんだけどね」
と長谷川氏の事実認識に疑問を呈した。
国会同意人事の時点で「女性の社会進出に否定的な発言」への懸念あった
長谷川氏は13年12月にNHK経営委員に就任している。NHK経営委員は国会同意人事で、安倍内閣が作家の百田尚樹氏や長谷川氏をはじめとする安倍氏に近いとされる人物を中心に国会に提示したという経緯がある。この人事案には「お友達人事」だとして疑問の声も多数出され、例えば12年10月25日の菅義偉官房長官の会見では、
「長谷川氏は女性の社会進出に否定的な発言をしている。これは総理が目指す、女性の社会進出を目指す政策と、果たして一致するのか」
といった批判もでていた。菅官房長官は
「大変な活躍をしており、まさに自立した女性のひとつの代表的な方なのではないか」
と釈明に追われていた。自民党の圧倒的な議席数を背景に国会は人事案に同意したが、大方の予想どおり「女性の社会進出に否定的な発言」が繰り返された形だ。