成果主義「死を招く」 残業代ゼロ制度なら

東京新聞web 2014年5月24日

写真 月140時間を超える残業時間の記録を見る店長の男性(省略)

 働いた時間の長さではなく、「成果」に応じて報酬を支払う「残業代ゼロ」制度の導入が政府の産業競争力会議で検討されている。労働時間と報酬を切り離せば、長時間労働を減らすことにもつながると強調。しかし、現状でも長時間労働を強いられながら、応分の残業代を支払われていない労働者からは「成果が出るまでさらに働かせられることになる」と不安の声が上がる。 (小林由比)

 猛暑が続いた昨年八月半ばの深夜、東京都目黒区のピザ宅配店で店長を務める男性(28)=大田区=は、歩いて帰る途中で吐き気と頭痛に襲われ、救急車で運ばれた。四カ月間、深夜まで働く日が続いていた。過労と診断されたが、点滴を受けて翌朝はいつも通り出勤。「とにかく仕事に行くことしか考えられなくなっていた」

 念願の正社員として昨年四月に入社。ハローワークの求人票には残業は一日最大二時間と示されていた。だが、就職後に会社からは「もっと頑張るなら」と、どれだけ働いても月五十四時間とみなし、固定残業代六万九千円余りを支払う提案があった。

 疑問に思いながらも応じた後は、午前十時から少なくとも閉店の午後十一時まで働いた。店にいる正社員は自分だけで、事務処理などが終わらず日付をまたぐ日も。アルバイトには昼食休憩を一時間取らせるが、自分は仕事の合間にゼリー飲料を流し込む。滑舌が悪くなり、食事や入浴をする気力もなくなった。

 残業時間は、厚生労働省が過労死ラインとする月八十時間を大幅に上回る月百四十時間以上。だが、固定残業代以上の残業代が払われたことはない。売り上げ目標に届かない店では、それさえ削られると店長仲間から聞いた。「成果報酬になれば、売り上げが達成できるまで、泊まり込んででも働くことになると思う。死ぬ人も出てくるのでは」

 都内の中堅外食会社に約一年勤務した調理師の男性(25)も長時間労働の結果、立っていられないほどの腰痛や難聴などの症状が出て休職。精神科で今月、抑うつ状態と診断された。

 年間の休日は五十九日、残業は月百四十〜百七十時間に上った。支払われた固定残業代の月六万二千円は、何時間分とみなされたのかも不明。月給を労働時間で割ってみると、時給は都の最低賃金八百六十九円を割り込む八百五十円程度だった。

 産業競争力会議で制度を提案した長谷川閑史(やすちか)経済同友会代表幹事は、一般従業員に適用する場合、労使と本人の合意が前提と強調。違法な長時間労働などを強いるブラック企業に悪用されることはないとした。

 しかし、若者の労働相談に乗るNPO法人「POSSE」代表の今野晴貴さん(31)は「現在でも労使協定さえ結ばず、違法にサービス残業をさせていても刑事罰を受ける会社はほとんどない」と指摘。残業代ゼロ制度が広がれば「労働者が自分の身を守る手段は何もなくなる」と批判する。

<残業代> 労働基準法は労働時間を「1日8時間・週40時間」と定める。長時間労働を抑制するため、法定労働時間を超えた時間外や休日の労働には、企業は割増賃金を支払わなければならない。

 労働時間の配分を個人に委ねる制度としては、デザイナーなどの専門職や企画部門などで働く人を対象とした裁量労働制がある。労使協定で定めた時間を働いたとみなし法定労働時間の8時間を超えた分は割増賃金が支払われる。

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