朝日新聞 2014年7月31日
写真・図版:会見するゼンショーHDの小川賢太郎社長(右)=31日、東京都千代田区、北村玲奈撮影(省略)
牛丼チェーン「すき家」で退職者が相次ぎ、多くの店が休業に追い込まれた問題で31日、運営するゼンショーホールディングス(HD)が設置した第三者委員会の報告書がまとまった。長時間残業を強いられ、違法な労働環境が日常化していた。経営陣は労働条件の見直しを約束したが、報酬返上などによる責任の明確化は考えていない。
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すき家は今年2月、「牛すき鍋定食」の販売を始めたが、店舗の業務量が増えて退職者が続出した。人手が足りず、4月にかけて247店舗が一時休業などに追い込まれた。
ゼンショーはこれを受け、4月末に久保利英明弁護士を委員長とする第三者委を設置した。第三者委はすき家の社員・バイト計3万人のうち、社員561人、バイト468人へのアンケートなどを実施した。
報告書によると、社員やバイトの残業時間が「過労死ライン」とされる月100時間を超えることが多かった。ほとんどの社員が24時間連続で働いた経験があり、2週間、自宅に帰れなかった社員もいた。
労使協定を超える残業をさせたことなどで労働基準監督署から勧告を受けたのが2013年度だけで49回にのぼった。社員の退職者は13年度だけで177人に達し、その年度の新規採用数を上回る人が辞めた。
過重な労働が原因でうつ病に追い込まれたり、過労やノイローゼで通院したりした退職社員もいた。過重労働が原因とみられる社員の居眠り運転による交通事故が12年度7件あった。
報告書は「経営幹部が超人的な長時間労働で、すき家を日本一にしたという成功体験を共有しており、部下にもそれを求めた」と指摘した。ただ、違法な労働条件を経営幹部が現場に指示したかどうかは「調査では認識できなかった」(久保利委員長)とした。
改善策として、一定時間以上の長時間労働を禁止するルールを策定するよう提言し、「店を閉めることになっても守らなければならない」とした。深夜帯などに店を一人で切り盛りする「一人勤務態勢(ワンオペ)」も「解消を早急に実現すべきだ」とした。
久保利委員長は会見で「HDの小川賢太郎社長とサシで議論する人材が生まれていない」として、外部からの人材登用を訴えた。(佐藤秀男、末崎毅)
■小川社長「従業員に過重な負担」
ゼンショーHDの小川社長は会見で「従業員に過重な負担がいってしまい、経営として反省している」と陳謝した。一方で「問題を解決していくことが経営責任だ」として、自らの引責辞任は否定した。報酬の返上も「現時点では考えていない」とした。
労働条件の改善については「速やかに是正すべき点は是正する」とした。「ワンオペ」の解消に向けて「1日も早く努力する」(すき家)としながらも、目標時期は示さなかった。
第三者委は、労基署の是正勧告について「一定程度、社長にも報告されていた」と指摘したが、小川社長は「内容を精査する段階」として明言を避けた。
国内店舗数は1992と、業界最古参の吉野家を08年に逆転し、急成長してきたすき家だが、「フード業世界一」の目標は降ろさない。今年度も新たに約30店舗を開く計画だ。小川社長は「出店を止めるとか、数を減らすということは、別問題だ」と強調。「私どもは世界一をめざしている。解決できればまだ成長できる」とも話した。(宮崎健)