毎日新聞 2014年9月9日
経団連が8日、政治献金への関与を5年ぶりに再開する方針を決めたのは、6月に就任した榊原定征会長が掲げる政治との協調路線の一環だ。「財界総本山」としての存在感が低下する中、安倍晋三政権への協力姿勢を明確に示して、法人減税など経済政策運営に一定の影響力を行使したいとの思惑がちらつく。ただ、献金への関与には経済界にも冷ややかな意見がくすぶり、企業や団体が積極的に献金に応じるかは不透明だ。
企業・団体の政治献金は1990年代前半、自民党向けで総額100億円近くに達していたが、2012年には約14億円まで減少した。09年に野党に転落した自民党への献金をやめたり減らしたりした企業が相次ぎ、関係者によると、12年の自民党の政権復帰後も少なからぬ企業が「お金を出しても効果がはっきりしない」などと再開や増額をしていないという。
安倍政権は、経団連が主張してきた法人減税や環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の推進を図っている。米倉弘昌前会長はアベノミクスの柱である大規模金融緩和を批判して関係が冷え込んだが、榊原会長は就任直後から関係改善を急いできた。法人減税などの議論は年末にかけて本格化する。これを控えて、献金への関与再開で関係修復を確実にしたい意向とみられる。
経団連としては「経団連が呼びかければ、企業も献金の再開や増額を株主に説明しやすくなる」(幹部)とみている。経団連は昨年10月、政党への政策評価を復活させたが、「政策を金で買う」との批判を避けるため、政策評価と献金を直接連動させない方針だ。
ただ、いったん献金をやめても、その後に必要と判断した企業や団体は既に個別に再開している。献金をやめたままの企業や団体が経団連の呼びかけだけで態度を変える保証はない。
09年に献金をやめた日本百貨店協会は「再開はまだ議題に挙がっていない」と「白紙」を強調。90年代の金融危機で公的資金を投入された大手銀行は公的資金を完済した後も献金自粛を続けている。メガバンク幹部は「他の業界に先駆けて再開に動くわけにはいかない。各行は当面、様子見だろう」と打ち明ける。
また、「政治とカネ」の問題を受けて、94年に政党交付金が導入された。経済界にも「将来的に企業・団体献金を廃止する方向となっていた。政党交付金を定めた法の趣旨を忘れるべきではない」(経済同友会の長谷川閑史<やすちか>代表幹事)との声があり、時代の流れに逆行するような動きへの批判がくすぶる。【川俣友宏、神崎修一】
◇呼びかけに応じて、すぐ増える状況にはない
森岡孝二・関西大名誉教授(株主オンブズマン事務局長)の話 政党助成金は企業献金をやめるという含みで導入された。私たちの調査でも、企業献金をしている上場企業の数も金額もかなり減っている。経団連の関与再開は大方の会員企業の意向というよりも、会長・副会長会社が自民党とのパイプを維持したい思惑からだろう。海外投資家の増加など株主構成が多様化していることもあり、大半の株主には受け入れられないだろう。呼びかけに応じてすぐ増える状況には無いと思う。