残業代ゼロは雇用を生むか

慶応大教授 金子勝

共同通信 2014年08月08日

 残業代をゼロとするホワイトカラー・エグゼンプションが話題になっている。日本は、無駄な残業が多く、成果主義で賃金を決めるようにすれば、生産性が上がるというのだ。だが、実際に「成果」を測るのは難しい。チームで仕事をする場合や時間がかかる技術開発の場合は特にそうだ。

 政府は、年収1千万円以上にホワイトカラー・エグゼンプションを導入する方針だ。当面、ごく少数にしか適用されないが、落とし穴がある。労働者派遣法のように、いったん「改正」されると、次々と範囲が拡大されていくからである。近い将来、適用年収が切り下げられていく可能性が高いだろう。

 年収が次第に引き下げられていくと、こういう悪循環が生じる。まず、できるだけ正 社員を絞り込み、非正社員を増やす。正社員の責任業務が増えるので、残業がますます増えるが、残業代が支払われないようになる。つまり、ホワイトカラー・エグゼンプションの範囲が拡大されると、残業は減らず、残業すべてがサービス残業になってしまう危険性がある。

 労働規制の緩和がベンチャー企業を生み、経済を成長させるという「神話」はそろそ ろやめた方がいい。実際には、若者の雇用を奪い、ブラック企業を横行させるだけであ る。それが、若い世代を結婚も出産もできなくし、少子高齢化を生む。

 地域に根差した再生可能エネルギー、農業、福祉といった分野において雇用を生む具 体策が求められている。ICT(情報通信技術)の積極的活用も必要だ。それが農業の6次産業化の一層の進展や地域包括ケアの仕組みを実現する。秋の臨時国会に出されるという「地域創生」法案では、地域に雇用を生む、具体的な産業政策が求められている。

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