時間外労働131時間、過労死認める 名古屋地裁支部

朝日デジタル 2014年10月1日

 愛知県安城市の建設関連会社で働いていた男性(当時59)が不整脈で亡くなったのは、長時間労働が原因だったとして、遺族が会社に約7800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が30日、名古屋地裁岡崎支部であった。小島法夫裁判官は「亡くなる前の1カ月に131時間の時間外労働があった」と認め、約4500万円の支払いを命じた。

 男性は同県西尾市の榊原悟さん。判決などによると、2011年12月、仕事で車を運転中、不整脈で亡くなり、労働基準監督署に労災と認定された。

 妻で原告の清子さん(61)らは13年2月、榊原さんの不整脈は長時間労働やストレスが原因として提訴。会社側は「過大な精神的、肉体的負担はなかった」などと反論していた。

 判決で、小島裁判官は労働基準監督署と同様、1カ月の時間外労働が131時間あったと認定。「過重業務も死亡と因果関係がある」とし、会社側の主張を退けた。一方、会社は健康診断を行い、榊原さんに健康に留意するよう助言していたが、応じなかったなどとして賠償額は減額した。

 会社側は「判決文が届いておらず、コメントはできない」としている。

■遺族、過労死対策訴え

 判決後、会見した榊原悟さんの妻清子さん(61)は「夫が真心を尽くして働いたことが認められ、何よりうれしい」と話した。

 午前7時前に出勤し、午後10時過ぎに帰宅する日々。「東海地方で一番の会社にしたい」と、休日も働いていた。ところが、会社は死後、態度を一変させた。労災請求のため、過去のタイムカードを求めたところ、拒否されたこともあったという。労働基準監督署は長時間労働による労災を認めたのに、会社側は裁判で「移動時間が長く、仕事中に私用もしていた」などと反論を重ねた。

 悟さんは仕事の日程や反省を記した15冊の手帳類を残していた。「体調が思わしくないが、逃げずに次に進むことを考えよう」「今をふんばれば未来は必ずある」。無口で、家ではあまり仕事の話をしなかった夫のメモを読んで、清子さんは涙したという。

 清子さんは、会社側が裁判所に提出した就業記録と、手帳類に残されたメモを比較。会社が「休み」とした時間帯に外回りをしていた記述をいくつか見つけ、証拠として提出した。この日の判決で「(会社の主張は)手帳の記載と異なり、業務状況を的確に示したといえない」との判断を導いた。

 裁判の傍ら、過労死遺族らでつくる「全国過労死を考える家族の会」の活動にも参加した。

 昨年4月、スイスのジュネーブ。英語教師をしていた経験を買われ、国連の委員を前にスピーチを読んだ。日本では過労死が若年層にも広がっている実態を訴え、「長時間労働を防止する措置を強化する必要がある」という国連の勧告に結びつけた。今年6月には「過労死等防止対策推進法」が成立。家族の会のメンバーと喜び合った。

 清子さんは「二度と私たちのような遺族を出してはならない。泣き寝入りしてきた遺族が救われる社会になってほしい」と訴えた。

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 〈過労死対策〉 厚生労働省によると、長時間労働で脳や心臓を患い、昨年度に本人や家族が労災請求をした件数は784件に上り、高い水準で推移している。今年6月には「過労死や過労自殺の対策を進める責任は国にある」と法律に初めて明記した過労死等防止対策推進法が成立。同法は年内施行の見込みで、11月を過労死防止月間と定め、防止策をまとめた大綱を作成することも盛り込まれている。

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