“女性活用”の厳しい現実 「管理職はご免」「育児が一段落…ポストない」

SankeiBiz 2014.4.15

一般社員の男女別昇進希望(図省略)

【女性“活用”の現実】(上)

 低い昇進希望 社会変革必要の時機

 安倍政権は経済政策の切り札に「女性活用」を掲げ、少子高齢化で減少する日本の労働力確保と経済活性化を目指す。これに呼応し、企業も多くの育児支援制度を打ち出してきた。だが、女性の間には「管理職にはなりたくない」「専業主婦が希望」との声がなお根強い。女性が働き続ける上で何が足かせなのか。徹底取材した。

 “バリキャリ”は無理

 IT企業に勤める都内在住の内山梓さん(36)=仮名=は、3歳の子供を保育所に預けて働いている。育児休業から復帰してしばらくは内勤だったが、現在は営業担当として外まわりもするし、男性の同僚と変わらない結果も求められる。

 ただ、内山さんは「この職場では管理職になりたくない」と言う。今は子育て中で免除されているが、管理職になれば毎日の残業や休日出勤は当たり前だ。

 情報通信会社に務める都内の女性(31)は2人目の育児休業中。会社は女性登用に前向きだが「子育てと管理職の両立は不可能に近い。子育てを犠牲にしたくないのでその気はない」という。

出版社で働く女性(37)は、社内に女性管理職はいるが「独身か結婚しても子供がいない“バリキャリ”ばかり」。高額なベビーシッターを雇う手もあるが「子供が寝てから帰る生活はしたくない」と考える。

 政府は「2020年までに指導的立場に占める女性の割合30%」を掲げるが、現状は先進国最低レベルの11%。出産で女性の約6割が仕事を辞める国で、3倍に増やすのは容易でない。安倍首相の要請もあり、相次ぎ女性活用へ動く企業が増える一方、肝心の女性たちが乗り気ではないケースが目立つ。

 労働政策研究・研修機構の調査(12年)では300人以上の会社の従業員で「役付でなくてもいい」と答えた女性の割合は68.9%。男性の25.7%に比べ昇進希望は著しく弱い。「不眠不休で働ける社員だけが評価される職場では、育児や介護など制限のある働き方はハンディになる」とワーク・ライフバランス社長の小室淑恵氏はいう。

子育てとの両立困難

 共働き世帯が増える中、会社内で年齢を重ねていく女性たちの戦力化は経営課題だ。リクルートはグループ内の28歳の女性社員を対象にした交流会「キャリアカフェ28」を実施。これから出産や昇進など節目を迎える社員に、子育てしながら活躍する先輩との交流を通じてキャリア形成を意識させる。

 日立製作所は出産を控える社員と上司を対象に、産休前復職支援セミナーを行う。産休・育休を経ても働く意欲を保てる職場づくりを工夫する。理系の多い帝人や従業員の8割が女性の資生堂も女性を対象にした幹部社員の育成研修に力を入れる。

 ただ、子育てしながらの昇進は生やさしいものではない。2歳の子供がいる大手通信会社の女性(36)は「育児が一段落した頃にはポストに空きはないだろう」とみる。育児を理由に残業や出張を伴う仕事を敬遠する自分が、男性の同僚を差し置いて昇進できるとは思えない。

 日本企業が国際競争を勝ち抜くためには、多様な人材による組織の活性化が必須で、性別にこだわってはいられない。しかし、国や企業の女性活用機運が盛り上がるほどに、冷めていく女性がいる事実がある。この溝を埋めるため、会社や社会が根本的に変わらなけれならない時機がきている。

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