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毎日新聞 2015年04月16日
◇上司の発言は録音すべし/加害者には女性も/オーダーメードの配慮を
妊娠や出産をきっかけに職場で精神的・肉体的な嫌がらせを受ける「マタハラ」(マタニティーハラスメント)が注目されている。加害者は男性に限らず女性も多いと聞いてドキリ。私、大丈夫かな。そこで上司も部下も男性も女性も読むと役立つ「問題発言リスト」を作ってみた。あなたは無自覚に誰かを傷つけてませんか?【小国綾子】
「女性の皆さん、入社してすぐ出産しないでください」。東京都内の大手企業の内定式。役員のあいさつを聞き、内定していた女子大生はびっくり仰天。公的な場で「産まないで」がまかり通るとは。
「で、その方は内定を蹴って別の会社に就職しました」。この話を学生本人から聞いたのは、マタハラ問題の第一人者、圷(あくつ)由美子弁護士だ。「『いつ産むか』という女性の自己決定権の侵害。ツイッターで企業名ごと暴露されたら大炎上しかねません」
別の会社の新人研修。幹部社員が新入社員を励ましている。「男女平等の時代。産んだ産まないは関係ない。要は仕事ができるかできないか」。リベラルな発言にも聞こえるが、子育て経験のある女性社員(48)や子育て中の社員は「出産後も一切配慮しないと言っているみたい」と暗い気持ちになった。
圷弁護士は「妊娠・育児中の社員であっても成果だけで競争させるという発言。育児のための権利行使を認めない、という遠回しのメッセージと受けとめる社員もいることを、上司は知っておくべきです」と指摘する。
連合のマタハラに関する意識調査(2014年5月)によると「マタハラ」という言葉を知っている人は62・3%。前回(13年)の20・5%から3倍に増えた。しかし「どんな言動がなぜいけないのかまでは現場の管理職レベルに浸透していない」と、連合非正規労働センター総合局長の村上陽子さんは語る。
妊娠や出産を理由にした退職強要や契約打ちきり、降格や職場配転などの違法行為は当然ダメだが、「上司や同僚が良かれと口にした言葉でも、妊娠・育児中の社員を働きにくい状態に追いやり、時に退職に追い込む可能性がある」(圷弁護士)という。
どんな言動に注意が必要なのか。まず部下に妊娠を報告された時−−。
働く女性1000人を対象にネットを通して実施した連合の「働く女性の妊娠に関する調査」(2月)によると、妊娠を会社側に報告するのに「ためらいを感じた」人は65・7%、上司や同僚の反応にストレスを「感じた」人は23・7%に上る。
圷弁護士は「まず『おめでとう』と言えるかどうか。上司のホンネが出やすい瞬間」と指摘する。「認めないぞ」「上司に相談せず妊娠するな」などの暴言を浴びた女性も。「妊娠報告時の上司の発言は録音しておくべし」と圷弁護士は助言しているそうだ。
圷弁護士や連合への相談内容を参考に、問題発言をリストにしたのが上の表。産む時期に会社や上司が介入するのは問題だ。妊産婦の体調は個人差が大きいことも理解すべきだという。連合には、男性上司の「俺の妻はこうだった」や女性上司の「私が妊娠していた時は」の類いの発言についての相談も多く寄せられる。「看護現場で『私が妊娠中は夜勤をやった』と女性上司に言われ、夜勤免除をお願いしづらい、という相談も多い」と村上さん。
この問題に取り組む「マタハラNet」(小酒部さやか代表)の調査によると、マタハラ加害者は「直属の男性上司」が30%で最多だが、「女性の経営層」(6%)「直属の女性上司」(12・5%)と女性も少なくない。
「妊娠は病気じゃない」「特別扱いできない」という言葉もよく耳にする。圷弁護士は「こう言われたために体調不良を上司に伝えることをちゅうちょし、我慢する人が多い」と注意喚起する。医師の指導を受けた場合、会社は時差通勤や勤務時間短縮、軽減勤務、つわり休暇などの措置を取る義務があるし、男女雇用機会均等法第9条第3項や育児・介護休業法第10条では、妊娠・出産、育休などを理由に不利益な扱いをすることを禁じている。法律の順守が求められているのは雇用主で、同僚らがマタハラ発言を繰り返し、妊娠・育児中の社員が心を病んだ場合などは、その状況を放置した雇用主の責任が問われることもある。
社員が育休から復帰した日には「おかえり、待っていたよ」「無理しないで」と温かく迎えたい。うっかり言いそうなのが「長期休み、うらやましい」「私も休みたいな」だ。復帰直後の社員は不安や申し訳なさを感じていることが多く、ささいな一言にも引け目を感じがちだ。育児に積極的に関わる男性が増えているので、男性社員に対する理解のない発言にも気をつけたい。
圷弁護士は「企業は『違法かどうか』だけで判断しがちだが、グレーゾーンのマタハラ発言を放置しないで」と訴える。そもそも時代が変われば、違法かどうかの線引きも変わる。例えば「妊娠したら解雇」「育休取得者はとりあえず降格」など、これまで企業が「本人の能力不足」を方便に行ってきた行為について、厚生労働省は今年、違法であると通達を出した。
実は圷弁護士自身にも経験がある。「1子目を産んだ時の育休取得前、『いつ復帰するの?』と同僚に何度も聞かれた。今思えば『帰ってきてね』という前向きなメッセージだったのに、あの時は早く戻らねばとプレッシャーを感じ、出産後2カ月で職場復帰した。予後が悪く、めまい、耳鳴りが続き、2子目を授かるまで3度流産した」
圷弁護士は「マタハラの難しさは『これなら大丈夫』という万人向けの答えがないこと。妊娠中の体調や育児サポート環境は人それぞれに違う。一人一人に応じたオーダーメードの配慮が必要になってくる」と強調する。
連合の村上さんは、「マタハラの背景に長時間労働がある。人手が足りず皆が疲弊している職場では、妊娠した同僚に『お互い様』という気持ちになりにくい」。連合には「職場で妊婦が出てしまって、しわ寄せを受けている。妊産婦の権利ばかり取り上げず、しわ寄せを受けているこっちも助けてほしい」という悩みの声も寄せられるという。
「子供を産み、育てやすい職場は、親の介護や家族の病気の看護をしやすい職場でもある。誰もがワーク・ライフ・バランスを大事にできる職場づくりこそが、マタハラ解決の一番の近道」と村上さん。
問題発言集、ぜひ役立ててください。
◇こんな発言には要注意!
●「同時に育休を取らないよう、女性社員同士で産む順番を決めて」「今は出産しない方が君のため」
→自己決定権の侵害
●「妊娠は病気じゃない」「男女平等。妊婦でも特別扱いはしない」
→妊産婦に認められた権利を行使しづらい立場に追い込む恐れ
●「育休で長く休めていいな」「育休で迷惑かけた同僚に謝りなさい」
→育休取得は法で認められている
●「子供がかわいそう」「夫の稼ぎでやっていけるんでしょ」
→女性社員に対する、男女役割分担の価値観の押しつけ
●「育休? 奥さんいないの?」「出世がまた遅れるぞ」
→男性社員に対する、男女役割分担の価値観の押しつけ