過労自殺で和解 ワタミ責任認める 1億3000万円支払い謝罪

http://www.sankeibiz.jp/express/news/151209/exc1512090830001-n1.htm
2015.12.9 08:30

過労自殺訴訟の和解を受けた記者会見で、うつむく自殺した森美菜さんの母、祐子さん(左)と父、豪さん=2015年12月8日午後、厚労省(共同)掲載省略

 居酒屋チェーンを経営するワタミ子会社の正社員だった森美菜さん=当時(26)=が2008年に過労で自殺したのは会社の責任だとして、両親が損害賠償を求めた訴訟は8日、東京地裁(吉田徹裁判長)で和解協議があり、ワタミや創業者の渡辺美樹(みき)参院議員(56)=自民=らが計約1億3000万円を支払い、自殺は過労が原因と認めて謝罪することで和解が成立した。

 和解内容には、ワタミが取り組む具体的な長時間労働の防止策も盛り込まれた。弁護団は「判決では実現できない成果も得られた。実質的な勝訴だ」と評価している。

 このケースをきっかけに過酷な労働条件に注目が集まり、労働者を酷使する会社に対する「ブラック企業」との批判も広がった。

 弁護団によると、ワタミは今後、研修や自宅でのリポート作成など、これまで業務とみなさなかったものも労働時間と認定。2008〜12年度の新卒社員約800人全員に、過去分の残業代として一律に約2万5000円を支払う。

 賠償額のうち4000万円が慰謝料で、弁護団は「同種の事案と比べると高額で、懲罰的な意味合いが込められている」としている。

 この日の和解協議には渡辺参院議員も出席し「責任は私にある。森さんを追い詰める結果になったことを悔いている」と両親に謝罪したという。

 訴状によると、森さんは08年4月、ワタミフードサービス(現ワタミ)に入社し、神奈川県内の店舗に配属された。休日がほとんどないまま午後から早朝にかけて長時間勤務が続き、08年6月に自殺した。残業は月140時間以上で、過労が原因で適応障害を発症していたとして、12年に労災と認定された。

 ≪後絶たぬ「ブラック」 再発防止へ法整備課題≫

 ワタミの過労自殺訴訟は、提訴から2年を経て和解が成立した。過酷な労働が若者らの心身をむしばみ、死にまで追いやる実態は深刻だ。政府も対策に乗り出したが効果は未知数。「ブラック企業」という言葉が広まるきっかけとなった象徴的訴訟の終結を受け、支援者は「過重労働が減らない社会の教訓にすべきだ」と訴える。

「約束を守って」

 「和解条項の約束を守ってほしい。過労で苦しんでいる人たちに良い影響が出ることを強く望む」。2008年に自殺した森美菜さんの父、豪さん(67)は8日の和解成立後の記者会見で、声を振り絞るように語った。

 森さんは08年4月に入社して居酒屋に配属となり、長時間の深夜勤務が重なった上、休日も研修などで十分な休養が取れずに心身を疲弊させた。自殺は入社から約2カ月後のことだった。

 過労をめぐる訴訟は後を絶たない。広告デザインなどを手掛ける会社で働いていた30代男性は、従業員が減って仕事量が増加。ひどいときは1年間休みなく働き、会社の机に突っ伏して寝ることも。「考える時間もなく、精神的におかしくなってしまった」。適応障害と診断され、会社に損害賠償を求めて提訴した。

減らぬ「使い捨て」

 若者の雇用問題に取り組むNPO法人「POSSE」の今野晴貴代表は今回の和解を「他企業や社会への教訓となる」とした上で「過労の問題は全然減らない。『ワタミはたまたま貧乏くじを引いた』とあぐらをかいている経営者もいるのでは」と警戒を緩めない。

 森さんの過労自殺は、若者を使い捨てにする「ブラック企業」や「過労死・過労自殺」問題への社会の関心を高め、政府も対策に乗り出した。

 14年11月には過労死等防止対策推進法が施行。対策を「国の責務」と明示し、国や自治体は過労死や過重労働の調査などに取り組むとした内容だ。今年7月に閣議決定した大綱では、過労死ゼロの目標も掲げた。厚生労働省は13年8月に「若者の『使い捨て』が疑われる企業への取り組み強化」をうたい、重点監督月間をつくった。今年4月には、過重労働の監督指導に専従する特別対策班を東京と大阪の労働局に設置した。

 ただ効果は未知数だ。厚労省の集計では14年度に労災認定された過労死は121件で、ここ数年はほぼ横ばい。未遂を含む過労自殺は99件で、過去最多となった。労災申請していないケースもあるとみられ、より多い可能性がある。

 政府方針に不信感

 一方、政府が先の国会に提出し、継続審議となった労働基準法改正案は労働時間規制を緩める内容で、「過労死が増える」との批判が噴出している。ポイントは(1)時間外や深夜・休日の割増賃金が支払われない高度プロフェッショナル制度の新設(2)あらかじめ定めたみなし労働時間を超えて働いても残業代が出ない裁量労働制の対象業務の拡大−の2点だ。

 このため労働者側からは「定額働かせ放題」「会社に求められれば長時間労働を避けられない」との声が出ている。

 過労死問題を研究してきた関西大の森岡孝二名誉教授も「今ある労働規制の根本を大きく崩しかねない改革案だ」と指摘し「過労を防ぐ対策を急ぐべきだ」と訴えた。(共同通信配信)

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