やむなく非正規、ミドル男性の苦悩 気づけば40歳過ぎ

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朝日デジタル 2016年2月3日

 契約や派遣社員など非正規の職から抜け出せない40歳前後の「非正規ミドル」が増えている。特に男性は「正社員の仕事がないため」が4割超と、「やむなく非正規」を続ける人の割合が他の世代や女性の同世代を上回る。低所得で老後への備えも十分積めないまま年を重ね、政府が1月末に打ち出した非正規支援策からも置き去りのままだ。

 昨年末、東京都内で開かれた就職面接会の会場。千葉県に住む41歳の男性が硬い表情でブースを回っていた。9月に派遣の仕事を辞め、正社員の職をつかもうと必死だ。だが、いまだ願いはかなっていない。

 1998年に九州の大学を卒業して18年。気づいたら40歳を過ぎていた。独身。結婚して子供を育てるという、若いころに思い描いた自身の姿は遠い。「ずるずると派遣社員で来てしまった」と肩を落とす。

 就職活動に取り組んだ90年代後半はバブル経済崩壊後の「氷河期」の真っただ中。地元の百貨店などを目指したがかなわず、地元の中小商社に入った。だが営業の仕事が合わず、転職するため3年で辞めた。パソコン関連の資格を取り、派遣で働きながら就活を始め、やっと東京のIT会社で正社員に。商社を辞めてから7年経っていた。

 ただ、喜びもつかの間。2008年秋のリーマン・ショックのあおりで、1カ月後に上司から突然、「来なくていい」。解雇になり、再び派遣社員としてコールセンターや携帯会社などの職を転々としながら、食いつないできた。「正社員の安定した職を得て、将来設計を組み立て直したい」。男性はつぶやくが、見通しは立っていない。

 ログイン前の続き派遣社員の待遇を改善させる活動をしている渡辺照子さん(56)は、自身も都内のコンサルタント会社で約15年間派遣社員として働いている。渡辺さんの不安は、埼玉県内で1人で暮らす長男(35)の将来だ。長男は資材会社の派遣社員だが、「ずっと負のスパイラルで、息子が派遣の仕事から抜け出せないのが悔しい」。

 長男は都内の私大に入ったが、学費を稼ぐためにアルバイトをしすぎて授業に追いつけなくなり、中退。そのまま非正規の仕事についた。

 長男は貯蓄も無く、その日に稼いだお金でなんとか暮らすのに必死で、腰を据えて正社員の仕事を探す余裕はなかった。7年ほど前に東京都の職業能力開発センターで職業訓練をして正社員をめざしたが、リーマン・ショックの直後で就職先は見つからなかった。

 渡辺さんは後悔の気持ちを隠せない。「新卒一括採用の日本では大学を中退させてしまったのがすべて。人生、チャンスは1回切りしかないんですよ」

■就職氷河期世代、乏しい支援

 国の労働力調査(15年7〜9月)によると、非正規で働く理由を「正社員の仕事がないから」と答えた35〜44歳の男性は、45・2%。45〜54歳も46・9%にのぼる。ほかの世代も含めた男性の平均は3割弱、パートの女性なども含む全体でも2割弱で、「やむなく非正規」の男性ミドル層の高さが際立つ。世帯の主な稼ぎ手としての役割を期待されることも多く、プレッシャーとなっているようだ。

 企業などに雇われている35〜44歳は約1330万人いるが、今やこのうち約390万人(3割)が非正規だ。非正規全体の2割を占め、05年の約300万人より3割も多い。うち男性は73万人で5割以上増えた。

 35〜44歳の層は1990年代後半からの就職氷河期や雇用環境の激変に直面した世代だ。企業は人件費削減にやっきになり、政府は派遣労働の拡大など労働法制の緩和を進めた。厚労省の14年の調査では非正規の採用理由に「賃金の節約」を挙げた企業が4割と最も多い。

 こうしたなか、正社員に就けず、あるいはリストラで正社員の職を失うなどして、そのまま非正規を脱出できない人が増えた。非正規は経験や技能を積む機会が少なく、「即戦力」を求める企業のニーズにあわず、ますます正社員への道が遠のく。

 正社員との賃金格差は大きく、現役時代の働き方が老後に深刻な影を落とす。正社員は厚生年金の加入率が99・1%だが、非正規は52・0%。厚生年金と国民年金では受けとれる平均月額に3倍の差がつく。

 非正規労働者をめぐっては厚生労働省が1月末、正社員への転換や待遇改善を支援する包括的な計画を発表したが、主に若者向けで、ミドル向けの施策は乏しい。(古賀大己、北川慧一)

 金沢大の伍賀一道名誉教授(社会政策) 40歳前後の非正規労働者は、バブル経済崩壊後の就職氷河期に苦しみ、そのまま抜け出せない世代。「自己責任」ではなく、社会全体の問題として考えるべきだ。所得も低く、未婚率も高く、孤独で貧しい老後を送る人が増えかねない。これ以上増やさないためには政策を大きく転換する必要がある。

 例えば、いまの職業訓練は仕事を休まなければ受けられず、ギリギリの生活を送る非正規には使いづらい。訓練期間中は雇用保険などで生活を支えることも必要だ。企業が正社員採用で、一定数を非正規から採る枠を設けることも考えられる。

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