医師の残業規制 難問 「現場は疲れ切っている」「患者の理解ないと……」

 2018-03-18 読売新聞

http://www.yomiuri.co.jp/national/20180318-OYT1T50036.html

医師の労働時間をどう管理するのか―。読売新聞の調査で先月、明らかになった全国の中核病院での過酷な労働実態。医師の違法残業などで労働基準監督署から是正勧告を受けた病院は100を超え、現場からは働き方改革の必要性を訴える声が上がる。一方、残業時間を一律に規制されることに戸惑いの声が聞かれ、労務管理の難しさが浮き彫りになっている。

「今の働き方はハードすぎて、なり手が減るのは当然」。関東地方の救急病院に勤務する40歳代の中堅医師はそう話し、ため息をついた。週末や夜間の勤務が頻繁にあり、体力が限界に近づいていると感じる。

医師の残業時間について、厚生労働省の有識者検討会は上限のあり方を検討しており、この医師も「今の制度を大幅に変えないと、現場は疲弊するばかりだ」と訴える。

小児科医の夫を過労自殺で亡くした「東京過労死を考える家族の会」の中原のり子代表も、「医師を特別な職業だと考えるべきではない」と改善を求める。

ただ、残業時間の一律管理に困惑する医師もいる。

昨年、是正勧告を受けた東日本の大学病院の医師は、勤務時間外でも患者や家族から病状の説明を求められれば応じていると明かし、「日本の医療は医師の長時間労働で成り立ってきた面がある。急に法律違反だと言われても…」と表情を曇らせる。

東北地方の病院で働いていた30歳代の若手医師は経験を積む重要な機会と思い、自ら進んで月10回以上、宿直勤務をこなしていたという。「長時間労働の解消にはシフト制の導入などが必要だが、引き継ぎの際にミスが起こる恐れがあり、心配だ。また、主治医による診察を求める患者側の理解がないと難しいのではないか」と懸念を示す。

同省の有識者検討会でも?医師は正当な理由なく診察を拒めないとする「応召(おうしょう)義務」の考え方の整理?残業時間の上限や宿直のあり方?自己研さんが「労働」に該当するのか―などの検討が今後の主な論点に挙げられた。

全国がん患者団体連合会の天野慎介理事長は、「疲れ果てて医療ミスを起こす恐れがある医師に命を預けたいと思う患者はいない。チーム医療も進めるべきた」と指摘。患者側の理解については、「主治医が休む前に直接、患者に説明し、スタッフを含めたチームの役割分担を丁寧に説明してくれれば、安心できるのではないか」と話している。
本紙全国調査

是正勧告 中核103病院に

読売新聞の全国調査で、回答期限(2月8日)後に寄せられた分を含めて集計し直した結果、2016年1月以降、医師の違法残業などで労働基準監督署から是正勧告を受けたのは103病院に上ることがわかった。回答期限の段階から4病院が増えた。

調査対象は、大学病院など全国85の特定機能病院をはじめ、救命救急センターや総合周産期母子医療センター、基幹災害拠点病院(救急センターは昨年8月、その他は同4月現在)に認定されている計349病院。「組織運営に関わる情報のため」と回答しなかった帝京大病院(東京都)やりんくう総合医療センター(大阪府)など47病院を除き、302病院から回答を得た。

分析の結果、是正勧告を受けていたのは103病院。労基署からの指摘内容(複数回答)は、残業時間の上限を定めた労使協定(36協定)を上回るなどした違法残業が73病院、残業代の未払いや割増賃金不足が33病院などとなっている。

医師の長時間労働の背景(複数回答)については、「地域や診療科ごとの医師の偏在、不足」を挙げたのは107病院で最も多く、以下、医師が原則として診療を拒むことができない「応召義務があるため」(93病院)、「診療報酬が充分でない」(37病院)。「患者の要求に応えるため」(29病院)などが続いた。

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