「月28日勤務」「危険な環境」 東京五輪の建設現場に根付く“恐怖の文化” (5/24)

「月28日勤務」「危険な環境」 東京五輪の建設現場に根付く“恐怖の文化”

https://news.nicovideo.jp/watch/nw5346801

2019/05/24 08:00ITmedia ビジネスオンライン

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時間外労働競技場過労自殺JS

選手村組織委員会

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 「The Dark Side of the Tokyo 2020 Summer Olympics (2020年東京オリンピック“闇の側面”)」

 

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 これは、国際建設林業労働組合連盟(BWI)がまとめた報告書のタイトルです。この報告書では、「2020年東京五輪・パラリンピックの競技会場などの建設現場で、作業員が過酷な労働環境に置かれている」として、大会組織委員会や日本スポーツ振興センター(JSC)に改善を求めています。

 

 BWIは約130の国・地域の労働組合が加盟する組織です。06年から五輪やサッカーワールドカップなど大規模イベントの建設現場の労働環境を調べ、提言書をまとめてきました。

 

 それで、今回。18年9月に複数の競技会場の建設現場を視察し、今年2月にはJSCを事業主体として整備中の新国立競技場と、都が建設中の選手村で働く作業員計40人から聞き取り調査を実施したところ、「頭上をコンクリートがプラプラしている状態で怖い」「月に28日間連続で働いている例がある」など、危険な建設現場の状況を訴える声が相次いだのです。

 

 具体的には、

 

・作業員の半数が雇用契約でなく、請負契約のため(一人親方が請負う)、法的な保護が手薄

 

・選手村で月28日間、新国立競技場で月26日間、勤務した作業員がいた

 

・作業員の中には安全器具を自腹で購入した者がいた

 

・薄暗い中での作業の改善を求める労組からの通報をJSCが受理しなかった

 

・外国人技能実習生の人権が守られていない、資材運搬など単純作業ばかりを強いる

 

・作業員が失職などを恐れて労働環境の改善を訴えにくい雰囲気がある

 

 といった内容が記されていたのです。

 

●日本の労働者たちを取り巻く「恐怖の文化」

 

 さらに、2人の死亡が確認されたことや、慢性的な人手不足に加えて時間的制約に追われていることも指摘。「karoshi(過労死)」という単語が報告書では何度も使われ、 日本の労働者たちには「culture of fear(恐怖の文化)」があるとし、

 

 「Wages remain low, dangerous overwork is common, and workers have limited access to recourse to address their issues(賃金は安く、危険な環境での長時間労働が常態化しており、一方で、働く人たちが満足に仕事を行うための機会を提供されていない<河合訳>)」

 

 と、BWIの書記長のA.ユソン氏は警告しています。

 

 「組織を変えたきゃ、若者、よそ者、ばか者の視点を生かせ!」というように、日本人の多くが「仕方がない」「今までもそうだったから」と、諦めたり見逃したりしていたことが、外国人のまなざしにはクリアに見える。

 

 日本の「働かせ方」、日本人の「働き方」は、非人間的以外の何ものでありません。

 

 「心は習慣で動かされる」とは、米国の教育心理学者ジェローム・セイモア・ブルナー博士の言葉ですが、「恐怖の文化」という表現が象徴するように、日本人は日本的“当たり前”に五感が縛られ、「ニッポン人はオカシイ。ニッポンの当たり前はセカイの非常識」になってしまっているのです。

 

 新国立競技場の工事現場では、17年に現場監督をしていた23歳の男性が「過労自殺」したことを覚えている方は多いと思います。

 

●時間外労働は月200時間超

 

 男性は、16年3月に大学を卒業し、地盤改良工事などを得意とする建設会社に入社。約10件の現場で経験を積み、16年12月から、東京五輪などに向けて建設中の新国立競技場の現場に配属となりました。

 

 男性が自殺する直前1カ月の時間外労働は200時間超。しかしながら、当初、会社側は「男性の時間外労働は80時間以内」と説明。遺族側が再調査を要求したところ、男性の時間外労働は1月が116時間、2月には193時間まで達していたと訂正したのです。

 

 男性が使用していたPCの電源の記録などから遺族らが割り出した労働時間はこれをさらに上回り、深夜までの労働が常態化しており、17年2月中に3回の徹夜勤務があったことも明らかになっています。

 

 男性は亡くなるひと月前の17年3月、「今日は欠勤する」と会社に連絡した後、突然失踪。4月に長野県内で遺体が発見されたときには、「突然このような形をとってしまい、もうしわけございません。身も心も限界の私はこのような結果しか思い浮かびませんでした」と記されたメモも見つかりました。

 

 いったいなぜ、心も体も悲鳴をあげ、生きる力がなえるまで働き続けてしまったのか。

 

 とてもとても悲しいことではあるけど、男性が“culture of fear(恐怖の文化)”に蝕まれ、悪いのは非人間的な働き方を“当たり前”にした企業なのに、自分を責めた。そう思えてなりません。

 

●労働コストが下がり続けるのは日本だけ

 

 かつての日本の企業には、「働く人を大切にする」という経営哲学が存在し、人の摂理に合ったさまざまな制度が存在していました。特に1970年代後半に、政府が「日本型福祉社会」にかじを切ってからは、日本の企業は「社会福祉の担い手」とし、新卒一括採用、入社後の教育、年功賃金、福利厚生を充実させ、会社員を家族のように大切にしました。

 

 心理学者のマズローが提唱した「ユーサイキアン・マネジメント(働く人々が精神的に健康であり得るためのマネジメント)」が実践されていたのです。

 

 しかしながら「会社組織」は、平成30年間で大きく変わりました。会社員は「人」ではなく、「コスト」になり、会社を守るために人がリストラされ、賃金カットの目的で成果主義が取り入れられ、業績の上がらない部署は切り捨てられ、非正規という「低賃金でいつでも切れる社員」を増やし、過労死や過労自殺、うつ病を生む“恐怖の文化”がまん延しています。

 

 その変貌ぶりは、データからも明確です。1999年を基準にした、2012年までの労働コストの推移(OECD調べ)を見ると、日本は右肩下がりになっています。世界の国々の労働コストが一貫して上昇傾向にあるのに対して、唯一、日本だけ労働コストが下がり続けているのです。

 

 企業側が「人」ではなく、「カネ」だけを見た結果、何人もの命が奪われ、危険な環境で「今」も働かされている人たちがいる。「恐怖の文化」を断ち切る努力を企業にしていただきたい。

 

 そして、どうかご安全に、これ以上誰も傷つくことがないよう、組織委員会には現状に真摯(しんし)に向き合い、早急に改善に努めてほしいです。

 

(河合薫)

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