「ウーバーイーツ」の知られざる労働実態 労組結成の動きについて配達員に聞くと…
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191002-00584476-shincho-soci&p=1
2019/10/2(水) 7:31配信 デイリー新潮
「ウーバーイーツ」の知られざる労働実態 労組結成の動きについて配達員に聞くと…
〔写真〕ウーバーイーツは、ブラックな労働環境が問題視されるが、現役の配達員はどう感じているのだろうか?(※画像はイメージ/photo by Franklin Heijnen)
「距離の計算がおかしい」「突然アカウントを停止された」「評価制度が不透明」「急に仕事がこなくなった」「事故のときどうなるか心配」……。これらは労組結成に向けて動き始めた、「ウーバーイーツユニオン準備会」のポスターに躍る文言だ。しばしばウーバーイーツは、ブラックな労働環境が問題視されるが、現役の配達員はどう感じているのだろうか。
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アメリカ発のフードデリバリーサービス「ウーバーイーツ」が日本に上陸して、およそ3年。当初、東京で約150軒だった提携飲食店は、今年2019年6月に1万軒を突破した。
ウーバーイーツとは、一言でいえば“出前代行サービス”。客が専用アプリで飲食店に出前を注文すると、店の付近にいる自転車やバイクに乗った配達員に注文が飛ぶ仕組みとなっており、店から食事を受け取った配達員が注文客のところまで届けてくれるというサービスだ。
東京を皮切りに大阪・京都・名古屋・福岡など拠点を拡大し、いまや全国で配達員は1万5千人以上いるといわれている。
このサービスでは、配達員はシフト制ではなく、好きな時間に働けるという大きなメリットがある。空いた時間に副収入を得ることができ、給与は週払い、必要書類さえあれば面接不要という手軽さもウケているようだ。
しかし、今年6月には、そんな自由な働き方を売りにするウーバーイーツで、労組結成の動きが出ていると報じられた。基本的に、ウーバー配達員は個人事業主として雇われるため、万が一、事故を起こした場合でも、配達先の相手と商品には補償があるが、配達員自身にはない。労災や雇用保険の対象外となっており、怪我の治療費などは自己負担しなければならない。
中にはひき逃げ被害に遭いながらも、なんの補償も受けられず泣き寝入りせざるをえない人もいるという。実際に働く人々は、ウーバーイーツのビジネスモデルをどう感じているのか。
出費がかさみ、客からの理不尽なクレームも
仕事の自由度に惹かれて配達員を始めたという山本広也さん(仮名/24歳)は、音楽活動の傍らウーバーイーツを副業として行っている。
「配達員は手軽に稼げる印象があったので始めましたが、最初は要領がつかめず時給にすると400円ぐらいでした。それに意外と出費もかかります。まずウーバーバッグと呼ばれる配達員が背負うリュックのデポジット代(預かり金)として8千円。返却(退職)時にそのお金は戻ってきますが、当時の僕にとって8千円は大きかったです。また安全に配達するための自転車のメンテナンス代もバカになりません」
ママチャリでは悪路や坂道などがキツく、配達スピードも収入に直結するため、山本さんはクロスバイクをわざわざ購入したという。ウーバーを始めて1年弱、現在の稼ぎはさすがに安定したかと思えば、そんなこともないようだ。
「時給換算すると、いまだに500〜2千円を行ったり来たりの状態です。注文の多い雨の日や土日であれば割はいいですが、基本的に稼ぎの予測はたちません。欲を言えば待機時間も最低保障が欲しいですね」
外で待機し続けていても、注文が自分のもとに入るまでは給与も発生しないため、安定した収入は難しい。さらにデリバリー中に危険を感じることも少なくないという。
「天候が悪い日は稼ぎ時ですが、そのぶん危険も伴います。お客さんは僕がいまどこにいるか、配達にあと何分ぐらいかかるかなど、常にアプリ上でチェックできるため、少しでも予定時刻より遅れると文句を言われたり、怒鳴られたりすることも。安全に配慮して運転したいが、配達が遅くなって評価を下げられてしまうこともあるので難しいです」
ベテラン配達員は稼ぎにくく、夏は熱中症リスクも
一方、もともと自転車が趣味だったことから配達員を始めたという佐藤洋平さん(仮名/27歳)は、「とにかく稼げない」と愚痴をこぼす。
「飲食店の仕事の本業があるので、ウーバーは趣味をかねた副業…ぐらいに思っていますが、それにしても稼げない(笑)。10kmの距離を配達してやっと千円ぐらい。現在地からお店に商品を取りに行く距離、お店からデリバリー先との距離の合計で収入は変わりますが、近場だと1件運んで300円以下なんてこともざらにあります」
特に、夏は猛暑のなかを自転車で走り続けなければならず、熱中症予防のドリンク代などを考えると割にあわないと嘆く。自転車慣れしている佐藤さんですら、1日デリバリーして日給は9千円前後。時給千円にも満たないときのほうが多いという。
「都内だと運ぶ距離が短いので、数をこなさないと収入は増えません。それに配達距離の計算がおかしいと感じることも少なくありません。あとはモチベーションを維持できる制度が欲しい。配達回数や注文者の評価実績によって配達員をゴールドパートナーとして認定する制度がありますが、ゴールドになっても指定のカフェが100円引きになる程度。これでは『回数と距離を稼げばいいや…』と雑な配達になる人が増えてもおかしくないと思います」
また、登録したての初心者には、注文が優先してまわされる仕様などがあるため、ベテラン配達員は稼ぎにくくなる。他にも、配達員用のアプリの不具合やバグが頻繁に起こる点など、2人の口から語られる不満は尽きない。とはいえ、労働組合の結成には決して前向きではないようだ。
「労組によって普通の企業と同じように縛りが増えたら、自由な働き方ができるというウーバーの唯一の良さがなくなってしまうかもしれません。そこが一番心配です」
ウーバーイーツは、配達員から雇用関係の認定や損害賠償請求訴訟を世界中で起こされており、賃金や労働条件の改善を訴える声も少なくない。ビジネスの自由度と労働補償のバランスをとることは可能なのだろうか。
取材・文/ジョージ山田(清談社)
週刊新潮WEB取材班
2019年10月2日 掲載