副業・兼業普及にハードル 労働時間合算など、現行制度の変更難しく (6/17)

副業・兼業普及にハードル 労働時間合算など、現行制度の変更難しく

Sankei.biz 2019.6.17 05:00
 
 政府の規制改革推進会議の答申には、副業・兼業の普及に向けた環境整備や介護休暇の柔軟化など、多様な働き方を実現するための案が並んだ。政府は働き方改革を後押しするため現行制度を見直す方針だ。人手不足が深刻化する中、既に取り組んでいる企業もある。一方で長時間労働を防ぎ労働者の健康を守る必要もあり、普及には課題も残る。
 
 ロート製薬(大阪市)は2016年、社会人3年目以上の社員を対象に就労時間外の副業を認める制度を導入した。約80人が薬剤師や日本語教師、サッカー指導員など幅広い職種を兼務。「副業をしている人は本業でも生き生きと働いている」(担当者)と好意的な受け止めが広がる。
 
 今年に入ってからも、みずほフィナンシャルグループ(FG)や東邦銀行(福島市)、カゴメ(名古屋市)など地方を含めた企業が続々と副業容認を表明した。「一人一人が活躍できる」(坂井辰史みずほFG社長)環境を整え、社外で得た経験を新ビジネスの創出などに生かしてもらう狙いがある。
 
 副業や兼業を後押しするビジネスも現れた。パソナグループは「移住ではなく旅するように働く」という発想で、都市部の人材と地方の中小企業をつなぎ、仕事を紹介する取り組みを3月に始めた。都市部で約150人、企業側は約20社が既に登録した。休日に若者らが地方で働く仕組みで、受け入れ側の企業には、営業委託や企業研修、商品開発支援といった人材を求める声があるという。
 
 
 厚生労働省は18年1月に労使の取り決めのひな型となる「モデル就業規則」を改定し、原則禁止だった副業・兼業を容認。だが、実際に認めている企業はまだ少ないのが現状だ。労働政策研究・研修機構が同年実施した調査では「許可する予定はない」と答えた企業が75.8%に上った。
 
 原因として指摘されるのが、複数の職場で働く人の労働時間を本業の雇用主が合算しなければならない現行制度だ。いつ、どれだけ働いているかが不明な副業の労働時間の把握は企業にとって負担だ。さらに、今年4月から始まった残業時間の上限規制に抵触するかどうかの判断も難しくなる。
 
 経団連も現状では慎重な立場だ。企業が長時間労働の是正や、労働時間の削減といった働き方改革を進めているにもかかわらず副業・兼業を認めれば、長時間労働を助長し、体調不良やパフォーマンスの低下につながりかねないためだ。
 
 働き方改革の一環で副業・兼業の普及を促進する厚労省は、労働時間の管理方法について議論する有識者会議を18年に立ち上げ、検討を進めている。だが、現行制度を変えるのは容易ではない。
 
 
 労働時間の管理は、長時間労働を防ぎ労働者の健康を確保するために雇用主の義務として定められている。ある電機メーカー幹部は「社員の健康管理の実効性が最大の課題だ」と指摘。厚労省職員は「下手に緩和すると際限がなくなってしまう。解決策を探すのが難しい」と頭を抱える。
 
 答申には介護休暇を、時間単位で取得できるようにすべきだとの意見も盛り込まれた。時間単位の取得は以前も検討されたが、労務管理の煩雑化を嫌った経済界が反対し、実現しなかった経緯があり、実現可能性は不透明だ。
 

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