「ワタミ」(東京)のグループ会社で、居酒屋「和民」などを全国展開する外食大手「ワタミフードサービス」(同)がアルバイト店員の勤務時間を一部切り捨て、正当な賃金を支払っていなかったとして北大阪労働基準監督署の是正勧告を受け、217人に計約1200万円の未払い賃金を支払った。一方、元店員の20代の男性が「内部告発に対する報復で解雇された」と主張。同社に慰謝料などを求める訴訟を2日にも起こす考えだ。
ワタミによると、ワタミフードサービスは「和民 香里園駅前店」(大阪府寝屋川市)と「坐・和民 枚方市駅前店」(同枚方市)でアルバイト店員の勤務時間を1分単位で記録せずに30分単位などで端数を切り捨て、賃金の一部が未払いになっているとして、06年9〜10月に是正勧告を受けた。北大阪労基署管内のほかの4店も調べるよう指導され、すべての店で同様の事態が判明。同社は計6店のアルバイト店員ら60人に計約400万円を支給した。
さらに同社は昨年2月、全国400店余りのアルバイト店員約1万2千人を対象に内部調査を実施。その結果、北海道・東北2店▽関東15店▽東海2店▽近畿20店▽中国2店の計41店で切り捨てが判明し、157人に計約800万円を支払った。ワタミの広報担当者は「労働時間の切り捨てはあってはならず、徹底できていない店があった。全国の店舗ですでに改めた」としている。
元アルバイト店員の男性によると、北大阪労基署に不正を通報したのは06年7月。解雇されたのは同年9月で、是正勧告が出る3日前だった。約450万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴する予定だ。元店員は、06年8月にワタミフードサービスの社員から「労基署に行くような人は企業にとってリスク」と退職を迫られたと主張。「一生懸命働いた者にきちんと給料を払ってほしかっただけ。解雇は不当だ」と訴えている。
一方、同社は解雇理由について「店長への暴力でけがをさせたため」と説明。元店員は「暴力をふるった事実はない」と反論している。
ワタミの広報担当者は「元店員の解雇理由は個人情報のため明らかにできないが、提訴されれば、訴状を見て対応を検討する」と話している。
2年前の夏。元アルバイト店員の男性は、深夜勤務を終えて手書きのタイムカードに「午前4時15分」と退店時刻を書いた。しかし、後からカードをチェックすると「15」は二重線と訂正印で消され、その下に「00」と書き込まれていた。退店時刻は「午前4時」にされ、15分間の勤務時間が切り捨てられた。
勤務時間を30分単位で丸める不正は、男性が働き始めた03年4月からずっと続いていたという。それに気づいたのは最初に給料をもらったとき。明細書の1カ月間の総勤務時間は、自分でメモした毎日の入退店時刻で計算した時間より短かった。「1分単位で記録しないのはおかしい」。店長に繰り返し訴えたが「それがルール」と取り合ってもらえなかった、と話す。
男性は店のチーフとして調理や接客、売上金の管理をし、週5日間働いた。時給約800円。準備で早く入店したり、後片づけで残業したりすることもあったが、そのたびに30分間に満たない労働時間がカットされたという。タイムカードをもとに正規の勤務表に記録するパソコンは入力パスワードを知る店長が管理していた。
大手ファストフード店が30分単位の切り捨てで是正指導を受けたことが、05年夏に発覚。ワタミフードサービスでも同様だった計算方法が1分単位に改められた。しかし、男性が働く店では徹底されなかった。06年7月、内部告発すると会社側に通告したうえで、労基署を訪れた。
西日本の系列店舗で数年前まで店長を務めていた元社員の20代の女性は、前任の店長からの引き継ぎでアルバイトの勤務時間を切り捨てていたと話した。「社員の私たちが会社に是正を働きかけるべきだった」